サンタモニカ会談以降、日本は戦前、戦中の問題を一つずつ解決していき、東南アジアの旧植民地の独立に向けて動いていた。
 それと並行するように、大西洋側では決して仲がよいとは言えない列強各国共同による大西洋大津波、及びアメリカ風邪に関する合同調査が 開始されていた。
 日本は調査団を護衛空母『海鷹』、軽巡洋艦『五十鈴』を中心とした船団(公式は遣米艦隊)に乗せて現地に送り込んでいた。

「これがアメリカ最大の巨大都市『ニューヨーク』の成れの果て、か」

 日本海軍遣米艦隊司令官・草鹿中将は、ニューヨーク沖合いに停泊中の護衛空母『海鷹』の作戦室で現在のニューヨークの写真を見て唸った。 そこには見るも無惨な姿になったニューヨークの姿があったからだ。
 破壊された高層ビル群、流され無惨に横倒しになった自由の女神。そして病魔によって汚染されて人間が死に絶えた街。戦前の繁栄振りを 知る者からすれば信じられない光景がそこにあった。

「しかもこのような光景は東海岸全域に広がっています。かつてアメリカ海軍大西洋艦隊の根拠地があった場所には、多数の艦艇が横たわって います」

 幕僚の言葉に草鹿は渋い顔をする。

「さしずめ、アメリカ海軍の、いやアメリカ合衆国という人工国家の墓標だな。墓を暴くような真似はしたくないのだが……」

 草鹿が何と言おうと、この調査、そして旧アメリカの遺産の接収は決定事項だった。
 死肉を啄む禿たかのように、列強はアメリカ合衆国という国そのものを骨の髄まで貪るつもりだった。そして貪りつくした後は、アメリカと 言う名すら残さず抹消する準備も進められている。彼らはアメリカ大陸という大陸の名前そのものを変えようとしていたのだ。
 『アトランティス』を筆頭に、様々な候補が挙げられており、昭和20年、或いはその翌年までにアメリカ大陸という大陸はこの世から抹消される と考えられていた。

(死人の墓を暴き、さらに死人の名誉さえ奪う。いくら憎むべき敵国だったとは言え、あのアメリカをここまで貶めるか)

 日本人からすれば、ここまで死者に鞭を打ち、死者の名誉を辱める行為は気持ちの良いものではなかった。
 だが夢幻会会合はその行動を是とし、日本政府はその会合の決定に従って動いていた。故に軍人である草鹿には不満を言うことは出来ても、 自身の考えを行動に移すことはできなかった。

「せめて、彼らの冥福を祈っておくか……」

 恐らく津波よって死亡したであろう大物SF作家を含めて、彼はこの『天災』と『疫病』で死んだ者達の冥福を個人的に祈らざるを得なかった。
 草鹿個人の考えは兎に角、各国調査団は厳重な警備と防護服で身を守りながらニューヨークに乗り込んでいくことになる。調査団の中には日本や ドイツが誇るマッドな学者達が揃っていた。特にドイツ側は人類文明存続のためというお題目によって如何なる人体実験も許可されるとあって テンションを上げていた。
 一方、津波の発生源とされたラ・パルマ島の調査は日本領ということで、日本調査団がまず現地入りしていた。尤も未だに火山が小規模であるが 噴火しており十分な調査は難しいというのが実情だった。
 だがそれでも、核が置かれた施設が消滅していることは確認されていた。

「件の施設は消滅しています」

 調査団が乗る船では、衝号作戦の真相を知る者たちが安堵していた。

「核爆発、そして流出したマグマや大量の土砂によって施設と機材は完全に消滅していると判断してよいでしょう」
「だが油断は出来ん。情報はどこから流出するかわからん。万が一、真相が露見すれば帝国は終わりだ。可能な限り調査を行え」
「はい」
「全く、アメリカに勝つためとはいえ、業が深いことだ……」

 彼らが計画し引き起こした大災害。大西洋大津波と言われる大災害による死者はすでに億の単位を超えている。失われた資産は天文学的な 数値であり正確な算出は到底不可能と言われている。津波の被害で崩壊した国も片手で数えることは出来ない程だ。

「環大西洋諸国の惨劇からすれば、我々はさしずめジ○ンといったところでしょうか」

 この自嘲気味の言葉に苦笑が広がる。だが一人の男が肩を竦める仕草をして呟くように言う。

「私は前世でジ○ンの蛮行に眉を顰めたこともある。だがこの戦いで、超大国を相手にタイマン勝負で戦うなら、アレくらいの蛮行を しなければ勝てないことはよく判ったよ。総力戦になる前に形振り構わぬ殲滅戦を行い、相手の継戦能力とその意思を砕く……確かに 理に適っている」
「国力が圧倒的に勝る相手に、勝利しようとするならこれだけのことをしなくてはならないと?」
「生産力だけが取り得の馬鹿国家なら、対処する方法はあるだろう。だがアメリカはそうではないだろう?」
「………」

 アメリカ人はどんな不利な状況でも決して諦めなかった。
 ハワイ沖海戦では昼間の航空戦に敗れたあと、彼らは起死回生とばかりに突進してきた。補充が出来ないというのに、彼らは 艦隊戦に勝機を見つけて全てのチップをつぎ込んだのだ。今では大愚策とされているがミッドウェー島の天候次第では、連合艦隊は 少なからざる打撃を受けていたかも知れないのだ。
 そしてその大胆な決断をし、あれだけ追い詰められた状況でも将兵を統率して艦隊を維持したアメリカ海軍の能力は恐るべき ものだった。
 満州決戦ではパットン中将が率いる第1騎兵師団が絶望的状況下でも勇戦し、満州で捕虜にした米軍兵士の中にはしぶとく 脱走の機会を伺ったりしたものもいた。民間人にすら日本軍の情報を様々なルートで本国に送ろうとした者さえ居る。

「恐るべきは不屈のヤンキー魂。アメリカンスピリッツ。史実で超大国になったのは伊達ではないということだ」
「「「………」」」
「尤もそれを理解していたからこそ、会合はこの作戦を計画したのだろうな」

 衝号作戦はある意味、既存のゲームルールとゲーム盤をひっくり返す反則技だった。
 日本よりもはるかに多くの駒を用意し、自国に有利なルール(ゲーム環境)を揃えていたアメリカは、この反則技によって あっという間に日本に対するアドバンテージを失った。

(同じゲーム盤で、同じルールで戦うなら勝ち目は無かった、か。所詮、日本はアメリカにはなれないということか)

 悲しい事実だった。だがそれを忘れず、自分の力を過信すれば日本は自滅の道を辿ることになる。

「……まぁ良い。今は調査と情報の隠蔽に全力を注ぐぞ」

 衝号の真相を知る人間は、極僅かであり、決定的な証拠がなければ追求は不可能となる。
 日本国内では証拠となるような物品、衝号作戦に関する文書はすでに全て入念に廃棄処分されていた。あとは現地に ある物だけだった。証人になりそうな人間は口を塞いでいる。たとえ良心の呵責があろうとも、事の真相が露見すれば全てが終ることを 理解していたのだ。誰もが墓の下まで真実をもっていくつもりだった。

(真実を虚実に、そして虚実を真実とし世界を欺き続けるか……大変な仕事だ)

 情報が僅かに漏れた程度なら、大抵は陰謀論で片付けられる。
 何しろ「手に入れたばかりの大西洋上の離れ小島の特性を把握した上で起爆実験もしていない新型爆弾で、日本が津波を引き起こした」など主張しても 誰も信用しない。むしろ日本は津波が発生し、それがどのような被害を齎すかを予め知っていたという情報のほうがよほど信用されるだろう。 何しろ真実の方が偽情報よりも遥かに現実離れしているからだ。

(人を騙すなら嘘と真実を混ぜ合わせた情報を流すに限る……)

 かくして夢幻の世界の住人は、世界を欺き、事の真相を歴史の闇に葬っていった。




              提督たちの憂鬱外伝 戦後編2




 大西洋大津波の被害が明らかになるにつれて欧州列強は、自分達が住んでいる欧州の地が決して安住の地ではないと考えるようになった。
 このためドイツは東方開発に力を入れ、フランスはアフリカの本国化をさらに押し進めた。加えて欧州列強は本国が消滅したポルトガルの植民地の 取り込みも活発化していった。
 だがそれらは現地住民のことなど、殆ど考慮しないものだった。欧州の白人にとって現地の有色人種の命など大したものではなかったのだ。 アフリカやロシア、東欧で吹き荒れる民族浄化は有色人種を震え上がらせるのに十分だった。
 故に白人以外の人種は、一部を除いてますます日本の台頭を歓迎した。
 有色人種の国でありながら、新興の列強国であった大日本帝国。かの国は大西洋大津波という災厄に助けられつつも、世界最大の工業大国であり 世界有数の海軍力を保持していた白人の大国・アメリカ合衆国を降し、さらにサンタモニカ会談で欧州諸国を東南アジアから引き上げさせた。
 さらに日本政府は黄金と武力で得た東南アジアを植民地化することなく、独立させることも発表した。それは日本が欧州諸国とは違うということを 宣言するものだった。
 インドネシア独立運動のリーダーだったスカルノは、ジャカルタの独立準備政府の庁舎で日本の正式発表を耳にしていた。

「……日本は我々の独立を認める、か。貴方方の言うとおりでしたな」

 執務室に居ても聞こえてくる歓声の中、スカルノは静かに応接用のソファーに座る男に視線を向けた。

「はい。ですが今すぐというわけでなく、独立準備政府の下、強固な基盤を作ってからと言うことですが」

 目の前に座る男、日本陸軍少佐・藤原岩一の言葉にスカルノは頷く。

「判っています。ですが全ての準備が完了した暁には……」

 その後は言わずとも判る。だがあえてスカルノは言う。

「独立します。それこそが我々の悲願なのです」

 目の前の男が誠実であることは判っていた。そして日本が約束を違わないことも。
 だがそれでも言わずにはいられない。オランダ、いや白人によって虐げられた彼らはそれほどまでに独立を待ち望んでいたのだから。
 そしてそのことを判らない藤原ではない。彼は夢幻会が構想していた戦略に基づいて、戦中から陸軍の特務機関の人間として独立派と接触していた。 故に彼らが如何に自分の国を持ちたいかを理解していたのだ。

「はい。我が国は必ず貴国を独立させます。我々は配下ではなく、よき『友人』を求めているのですから」
「友人ですか……貴方方がその気になれば覇者になれるのでは?」

 スカルノの言葉は誰もが感じていたことだった。
 欧米と互角以上に渡り合える日本であれば、東アジアの覇者になることだって出来る。自分達を組み敷いて統治することもできるのだ。

「『好き好んで恨まれ役になるつもりはない』、それが帝国政府の回答です」

 力で強引に支配すれば利益を吸い上げることも出来るが、現地民の不満や怒りを買うことになる。日本はそんな面倒を買って出るつもりは なかった。ただ独立の際に多大な恩を売り、さらに国家の基盤を整備する際に日本の影響力を色濃く残すことで、後ほど利益を得るつもりで いた。

「見返りを求めず他国に奉仕する国家なんて、気味が悪いだけですよ」

 某秘密結社の幹部会の席で、某大臣はそういい捨てたと言われている。
 勿論、そんな台詞など今のスカルノは知る由も無い。故に笑った。

「ははは。日本としては我々を支配するより、友人としたほうが利益があると?」
「勿論です」

 だが友人と言っても、日本とインドネシアの力関係を見る限り、日本が優位に立つことは間違いない。仮に無理に日本と対等な外交を しようとすれば欧州列強に隙を作ってしまう。

(欧州は有色人種を奴隷同然に扱っている。そして彼らは我々を対等な国家として扱うつもりはないだろう。日本を上手く利用していくしかないか)

 彼はインドネシアの人間であり、インドネシアの利益を最大限に考える必要がある。故に彼は今、インドネシアが最も利益を得るために当面は 日本の風下に立つしかないと判断した。それに日本はインドネシア内のイスラム教徒が聖地に巡礼に赴くために専用の船さえ用意してくれるなど 最大限の便宜を図っている。このため心情的反発も少ない。

「日本とは末永くお付き合いしていきたいと思っています」
「我々もです」

 藤原もスカルノの内心は理解していた。だがそれでも彼は何も言わない。彼はインドネシアの人間なのだ。そして国家に真の友情は存在しない。 ならば利害を一致させて付き合っていくしかないのだ。だがそれでも信用は大事だった。それが無ければ、交渉に多大な悪影響が出るのだから。

(日本の信用、いや評判を落とさないようにしなければならない。内地から来る官僚共が余計な真似をしなければいいが……)

 良かれと思ってやったことも、人によっては余計なお世話ということもある。
 この藤原とスカルノの会話と似たような内容の会話が、東南アジアのあちこちで交わされていた。
 尤も北部を中心に国土を華南連邦によって荒廃させられたベトナムでは、華南連邦への報復に協力を要請する声があったが、日本はこれをきっぱりと 拒否した。

「何より再建が先です」

 ホーチミンが日本の警告を無視した結果がこの惨状と言われると、彼らも反論しようがなかった。加えてホーチミンが『世界の敵』である共産主義者 であったことも大きな問題だった。

「我々は共産主義が東南アジアで拡大するのを防ぐため出兵したのです」

 華南連邦大統領・汪兆銘は堂々と、ベトナム出兵を正当化した。さらに民間人を巻き込んだという非難に対しては、ホーチミンによる民間人を巻き込んだ ゲリラ戦術を槍玉に上げ、「華南連邦に非はない」と主張した。
 日本側が「被害が大きすぎる」と苦言を呈すると、ベトナムの『新たな宗主国』である日本に対して「少しやりすぎた」ことは認めて謝罪し、ベトナム戦 の最中に問題があったとされる将兵を厳罰に処すことを伝えた。ただし彼らの譲歩もそれだけだった。

「我々は未来志向の関係を日本帝国との間でもちたいと思っています」

 汪兆銘は華南連邦を訪れた日本の特使・松岡洋石に対して平然とそう言い放った。松岡はそれに何の感慨も抱かず冷静に分析する。

(蜥蜴の尻尾切りか……だがここは、彼らの言い分を受け入れた方が良いだろう。彼らは帝国には謝罪した。ベトナムへの謝罪を強いることも出来るが、 それまですると華南連邦を刺激しすぎる)

 だがその直後、松岡は切り出す。

「ですが今回のようなことが再び起きれば、我が国と貴国との関係に亀裂が入るでしょう。それは避けなければなりません」
「異論はありません。ベトナムで見せたように我が国の軍隊は非常に未熟です。ですので、この軍を精強なものに出来れば今回のような事態は回避できる でしょう。また両国の関係を深化させることが出来れば事前のすり合わせも容易になると思います」
「では、どのような手を?」
「英国から軍事顧問団を招き、軍の強化に努めます。同時に貴国との軍事交流を強化したいと思っています。加えて日本製の兵器の購入も」
「失礼ですが、貴国はイギリスの……」
「我々が最も欲しいのは長江以北の軍閥群を牽制するための砲艦です。我々は華北の住人達の内輪もめに巻き込まれたくないのです。ですがイギリスは 我々の要望に答えられる状況ではありません」

 イギリスの造船所は津波によって打撃を受けて再建中か、戦争と津波で大打撃を受けた王立海軍と商船団の再建に大忙しだった。
 そして華北は汪兆銘の言うとおり内戦の真っ最中であった。北京政府は力を失い、各地で地方軍閥が蠢いていおり、まさに王朝末期の状況だった。加えて 日本との講和条約で大量の食糧を供給させられた後、世界的な凶作が華北にさらに打撃を与えていた。金で食糧が手に入らないとなれば、あとは奪い 合うしかなかった。華南はまだ比較的安定していたが、それゆえに華北住人にとって華南は垂涎の的だった。

「なるほど」
「あとは地上攻撃機です。貴国と中華民国との戦いで、日本陸軍航空隊の活躍は耳にしています。少女を機体に描いた攻撃機が活躍したとか」
「はははは……」

 松岡は乾いた笑みを浮かべた。同時に『痛い子中隊』に対する罵倒を一ダースほど口の中で呟いた。

(あ、あの変態共が!)

 痛い子中隊の活躍は彼も耳にしている。中国戦線では散々に暴れ回り、対中戦争末期では死神と恐れられ、『彼女達』の顔が描かれた機体を見た 瞬間に中華民国軍が総崩れになったという逸話さえある程だ。死神、冥界の使者etc……厨二な方々なら喜ぶような渾名で呼ばれた彼らはこんな ところにも影響を与えていたのだ。

「採用されてから年月が経っている機体ですが、我が国としては北の住人達への抑止力になると思っています」
「……ほ、本国に伝えます」

 汪兆銘はさらに日本企業の華南連邦への進出、日本が必要とする資源や食糧の輸出で可能な限り便宜を図ることを伝える。それは日本にとって 非常に魅力的な提案だった。
 こうして日本と華南連邦の交流は深まっていくことになる。それは日本にとっても大きな利益となるのだが……日本陸海軍良識派にとって 酷い頭痛をもたらす事象が、後に華南の空に現れることになる。

「憎まれっ子ならぬ痛い子、世に憚る……か」

 陸軍近代化に尽力した某元帥陸軍大将は、苦労人の某元帥海軍大将と共に遠い目をしたと言われている。
 華南連邦や東南アジアでの交渉は順調に進んでいた。だが実際には自主独立を主張する者も少なくなかった。特にインドでは他の東南アジア の旧植民地のように日本に大きく頼ることなく独立しようとする動きが強かった。

「日本に頼りきりになるのではなく、自分の足で立つべきだ!」

 ネルーの意見に頷く人間は多かった。
 彼らの動きの根底には、段階的独立を約束しながらも未だに搾取を続け、独立後も利権を保持しようとするイギリスとそれを認める日本への 不満があった。それが日英側の独立案を一蹴することにも繋がった。

「日本や英国が唱える分離独立は認められない!」

 日本はインド周辺の安定のため、6つに分けて分離独立することを提案していたのだが、インド国民議会はそれを拒否した。
 ネルーは宗教問題から、最低限の分離は止むを得ないという態度を示したが、6つに分ける案は受け入れなかったのだ。
 過激な意見に拍車を掛けたのは43年、44年と続いた天候不順と経済的混乱、そして復興を急ぐ宗主国イギリスによる搾取だった。2年続けての 凶作は食糧価格の高騰をもたらしていた。これは貧困層の生活を直撃。これにイギリスによる搾取が加わったのだ。
 そしてその打撃を最も受けたのが、カースト制度でスードラ、ダリットと呼ばれる人々だった。カースト制度によって押さえ込まれていた彼ら、特に ダリットはこの食糧難と経済難の影響を大きく受けた。
 食うに困ったダリットの反乱や犯罪が多発し、それに反発するように強化される押さえつけがさらに事態を悪化させていくという悪循環がインドを 覆っていた。インドを細かく分離すれば、南インドと北インドの統一さえ亀裂が入るとネルーは主張し、カースト制を支持しているガンディーもこれに 乗った。
 そんな中、これまでインドのことなど見向きもしなかったドイツが声を掛けてきた。

「我々は統一インドを支持する」
「インドが独立、近代化に必要とする技術や施設を供給することも吝かではない」

 ヒトラーはインド市場進出を図っていた。
 インドを枢軸に組み込むか、或いは中立にもっていけば彼らの影響力が拡大しつつある中東地域はより安全になるのだ。さらにフランスなど イギリスに恨みを持つ国々はイギリスのインド独立計画を粉砕して、イギリスのインド利権を台無しにしてやるつもりだった。

「あの似非紳士共には一度逆襲してやらなければ気がすまん」

 それがフランス人の思いだった。
 フランスは人間魚雷で大破・着底していた英海軍の戦艦クイーンエリザベスとヴァリアントを改装し、この2隻を高速戦艦として再就役させていた。 基準排水量34500トンという艦体に8門の38センチ砲、連装10基の13センチ両用砲を搭載し、さらに最高速力25ノットを誇る有力な 戦艦の一番艦は『復讐』の意味を持つ『ルバンシュ』の名前を、二番艦には『鉄槌』の意味を持つ『マルテル』という名前を与えられていた。 このことから、フランスが如何にイギリスを憎んでいるかがうかがい知れる。
 そんな彼らがインド問題でイギリスの足を引っ張らない訳が無い。ヒトラーもイギリスの足を引っ張ることは黙認しており、彼らは凄まじい怨念と 執念をもってインドに工作を仕掛けることになる。

「『策略』がイギリス人の物だけでないことを思い知らせてやる」

 この時、日英側は枢軸の動きを完全に掴みきっていなかった。
 ただドイツを筆頭にした枢軸がインドの関係強化を図っていること、イギリス権益に打撃を与えようとしていることは察することが出来た。 このことから夢幻会では如何なる手を打つか協議することになった。




「やはりインドは手強いか」
「彼らは日独の間を渡り歩いて、第三の目になるつもりなのでしょう。あとイギリスも動いているようですが」
「インドが『腹黒紳士』VS『ちょび髭総統と愉快な仲間達』のバトルの場になるのか……胸熱、いや嫌な予感しかしないな」
「うまく独立させないと紛争地帯になるな……」

 内容は極めて重要だった。しかし彼らが居る場所が色々と台無しにしていた。

「何故にカレー……ネタですか?」

 カレーを食べながらインドに関する議題をする面々を見て、嶋田は頭痛が酷くなるのを感じた。
 ちなみに彼らがいるのは某カレー店。前に会合が開催されたお好み焼き屋と同様に夢幻会の人間が経営している個人店であり、 知る人ぞ知る名店だった。勿論、今日は貸切だ。

「食事は基本ですよ。嶋田さんも美味しいものを食べて明日の英気を養わないと」

 近衛の勧めを聞いて嶋田も気分を切り替える。いや切り換えずにはいられなかったというのが実情だろう。
 ちなみに同席していた山本は最初こそ戸惑っていたが、今ではすっかり順応しており、カレーを食べている。それを見た嶋田はさすがは史実の 偉人と改めて精神の図太さに感嘆した。そしてこのままではカレーが勿体無いと思い、開き直った。

「そ、そうですね。久しぶりにおにぎりやサンドイッチ以外の夕食も悪くないでしょうし」

 「豚のほうがいいな」「いやチキンだ」「いやカレーの鉄板は……」と雑談が入る中、芳醇なスパイスの香りを堪能しつつ嶋田はカレーを食べ始める。

「あ、すいません。福神漬けを」
「どうぞ。そういえば卵は?」
「いや、それは遠慮します」
「おや嶋田さんは福神漬け派ですか? らっきょうも良いですよ? 特にここのらっきょうは上手いですよ」
「いや、福神漬けが絶対だ!」
「何だと?! てめえ、表に出ろ!!」

 カレー談義をスルーしつつ、嶋田は食事と書類のチェックを同時進行した。勿論、書類にカレーが散るような無様な真似はしない。

(イギリスは、もはやインドを御すことも出来ないということか……いや日本が躍進したことで、その分、白人の威信が低下した影響もあるか)

 史実で米ソどちらにも属さない第三勢力になろうとした動きを見る限り、インドは一筋縄ではいかない国であった。
 日本としても強引にインドを自国に引き込むのは難しく、また無理に引き込んでも勢力圏の不和の種になるだけであった。何しろインドにも中華思想に 似た思想が存在していた。同じ有色人種で、自国よりもはるかに小さな国である日本が盟主面をするのは面白くないだろう。

「この状況でインド独立のタイミングを誤ると、インドは大混乱に陥るぞ」
「ですがインド人たち、いえ国民議会はこちらの分離独立案に反対しています。彼らが呑むとしたら精々イスラム教徒が住む地域の分離でしょう。 それで現状のまま独立した場合、インドは様々な問題を含んだままとなります」

 現状のインドは、史実よりも状況が悪い。その状況を考慮した上での分割案だったのだが……それはインド側の反発で水泡を帰した。

「そして古今東西、国内の不満を逸らす手段は一つ。外部に敵を作ることです」

 辻の言葉に近衛は嫌な顔をする。

「下手をすれば、インドが我々の敵になる、と?」
「可能性は否定できません。何しろカースト制度のような身分社会は、枢軸が唱える新たな社会制度に親和性があります。外務省、情報局からの 報告ではインドでは国内の不安定要素となっているダリットを弾圧するにはドイツと組んだ方が良いとの意見が台頭しているとのことです」
「「「………」」」

 亜大陸インドが敵となる……それは日本にとっては手痛い損失になる。
 そしてそれをリカバーするとなると、並大抵のことではない。

「……なら逆手に取るのも手かも知れん」
「近衛さん、何か案があるのですか?」
「彼らが独立したいなら、さっさと独立させればいい。引き換えに連中が許容するようにイスラム教徒の地域は分離独立させる。あとイギリスがインドに 投資した金は回収。権益は適正価格で売却する」
「インドから引くと?」
「どうせこのままではインドは維持できまい。損切りだ。ズルズルと引き伸ばせば、これまで投資したものを全てドイツ側に持っていかれかねない。それなら 引き上げて第二のインドでもある華南連邦に投下した方がマシだろう……それに大体、今のインドの混乱はイギリスの無茶な搾取も影響しているのだ。 インドからの権益引き上げのために日本も協力すると打診すればノーとは言わないだろう」

 この言葉に、誰もがため息を付く。

「引き上げ後、我々はインドに対して一切の支援は行わない。緑の革命によって得られるであろう成果も何もかも、だ。華南連邦やオーストラリアの 余剰食糧も回さない。彼らが新たな盟友にした欧州枢軸に面倒を見させる」
「ドイツにお荷物を押し付けると?」
「統一インドを支持したのは連中だ。ならばかつての中国に匹敵する人口の面倒を見てもらえば良い。尤もこのままでは国内の不和から内戦に突入する 可能性が大だ。我々としては内戦が始まるにせよ、こちらの体制が整うまで待ってもらいたいものだが」

 近衛は一種の焦土作戦を行うつもりだった。犠牲になるのはインド国民だが、インド国民の総意の結果とも抗弁できる。そしてインドが大混乱に 陥れば、ドイツやフランスの横槍について追求することが出来る。仮にドイツやフランスがインドの窮状に対して手を打たないなら、彼らの言うことが 如何に信用できないかを喧伝でき、自国勢力圏の引き締めにも使える。

「ですが内戦になる前に、インドがパキスタンと戦端を開けば?」
「我々がパキスタンを支援するだけだ。それにイスラム教徒が多いパキスタンを攻撃するヒンドゥー教徒の国・インドを枢軸が支援するようなことがあれば……」
「中東はさぞ面白いことになるでしょう。近衛さんの腕の見せ所……新作映画も作れますね」
「幸い、巡礼船の件でアラブとは良好な関係を維持している。このツテも利用できる」
「ふむ……英国が中東で巻き返しを図る機会が出来るかも知れませんね」

 辻はさも面白そうな顔をする。
 真っ黒な会話をする近衛と辻を横目で見つつ、軍人達はため息をつく。

「あ〜見ざる聞かざる。軍人は自分の職務のことだけを考えよう……ってそれも無理か」
「折角のカレーが不味くなりそうだ」
「あとで胃薬を貰わないと……」

 そんな様子を横目に山本は嶋田に尋ねる。

「いつもこうなのか?」
「……まぁな。気にしたら負けだ。今はカレーを味わうことだけに集中しておけ。どうせまた扱き使われるからな」
「……」

 半ば哀れみが篭った視線を山本から向けられた嶋田は、遠い目をしながら今後のインド情勢について思いを馳せる。

(それにしてもインドがドイツ、パキスタンが日本と組む。史実の裏返しか?)

 そんな嶋田と山本のやり取りを他所に話が纏まったのか、近衛は嶋田に顔を向ける。

「ただしインド洋の制海権を失うのは拙い。セイロン島に遣印艦隊を派遣しなければならない」

 近衛の視線を受けた嶋田はすぐに答える。

「……第2艦隊ならすぐに送れます。戦時体制に移行すれば他の艦隊も順次派遣できるでしょう」
「陸軍は?」

 これに永田が答える。

「3個師団と1個飛行集団なら。ただし大規模な内戦に陥った場合、アッサムなどインド東部を分離して防壁とし、東南アジアへの難民流入を阻止する必要があるかと」
「情報局も忙しくなりそうですが……まぁ不可能ではないでしょう」

 必要となる予算と人員を頭で算出した辻と田中は渋い顔だが頷いた。

「幸い、チャンドラ・ボースは親日姿勢を打ち出しています。東部インドの象徴には丁度いいでしょう」

 この辻の言葉に誰もが頷いた。全体を見た嶋田は確認するように全員に向けて尋ねた。

「ではイギリスにこの戦略を提案。イギリスの了承次第、実行に移すということで?」
「「「異議なし」」」
「まぁ問題はイギリスが拒否した場合ですが……」
「その時はイギリスに代案を出させるだけですよ。腹黒紳士の方ならさぞ面白い意見を出してくれるでしょう」

 辻は嶋田の懸念を聞くと、にやりと笑ってそう言い放った。それを見た後、影が薄いと言われがちの外務省から来た白洲が報告する。

「あとはメキシコの件ですが、こちらは纏まりました。今年中に、例のカリブ海演習前に発表できます」
「……これでアメリカ南部は安定し、ユーラシア、いえインド情勢に目を向けられます」

 嶋田のほっとした顔に出席者は相槌を打つ。

「疾風のお披露目も近い、か」

 疾風の性能を熟知している杉山は、世界が疾風の性能を知った時の驚きを想像して相互を崩した。
 日本が決戦兵器の一つとして開発されたジェット戦闘機『疾風』。その性能は既存の戦闘機とは一線を画すものなのだ。疾風に対抗できる 戦闘機はどの国も持っていない。

「ええ。枢軸側の度肝を抜けると思います。連中、烈風改と戦えるレシプロ機の開発に夢中でしたから」

 杉山は嶋田の台詞を聞くと、声を抑えて笑い出した。

「そのために疾風の存在を可能な限り伏せた上で、フィンランドに烈風改、イギリスに烈風や飛燕を輸出して、連中の目をクギ付けにしたのは君だろうに。 おまけに輸出品の中には枢軸の開発計画を混乱させるような品物まで混ぜていただろう?」
「政治の騙し合いでは、騙しに引っ掛かる方が悪いのですよ」

 辻のように黒い笑みを浮かべる嶋田。

「連中が急いで開発を進めても、その頃にはこちらはその先をいけます」

 日本ではトランジスタに続いて、ICの開発も急ピッチで進んでいた。それが完成すれば電子計算機の性能はさらに向上する。それは開発速度の さらなる向上を意味していた。

「欧州が本格的に立ち直る前に、出来るだけ差をつける必要がありますから」




 新たに独立する国々への梃入れと並行して日本は新たな衛星国となったフィリピンに対しても支援を実施した。 その一環としてフィリピン周辺には先の日米戦争で日本海軍が海上封鎖のためにばら撒いた機雷の処理が日本の資金で進められた。
 尤も日本政府はこの機雷の処理を日本海軍ではなく、職にあぶれた旧連邦軍の軍人の救済も兼ねて旧米海軍関係者に行わせた。

「ジャップに負けた後は、ジャップがばら撒いた機雷の処理とは……」

 掃海艇の上で、旧米海軍関係者(軍曹)はぼやいた。しかしそんな彼を元上官が咎めた。

「おい、サボるな。今はこれが俺達の飯の種なんだからな」
「へいへい」
「それに俺達がここで無様な真似をしたら、俺達の評価は地に落ちるぞ」
「……」

 旧アメリカ海軍軍人は、カリフォルニア共和国では冷や飯ぐらいだった。カリフォルニアはその立ち位置から、陸軍の整備に国力を割かなければ ならなかった。故に海軍は縮小傾向だったのだ。
 さらにフィリピン沖、ハワイ沖海戦での完全敗北は、アメリカ海軍の威信を失墜させていた。日本海軍に一矢報いることもできず敗北し、連邦崩壊を 助長させたという意見もあった。

「黄色い猿に、先見性で負けた」

 そんな声も少なくなく、旧海軍関係者の肩身は狭い。旧海軍随一の航空主兵論者であるハルゼー提督は、上層部の無理解によって力を発揮できず 敗者となったという見方のため中傷誹謗こそ少なかったが、ハワイ沖海戦で大敗したパイ提督などは死者にも関わらず無能と罵られていた。

「俺達は必死に戦った。アメリカのために、市民を守るために体当たりだって辞さない覚悟だった。それなのに……」

 そんな旧米海軍関係を最大限擁護していたのは、彼らを散々に打ち負かした日本海軍だった。

「無い無い尽くしの中、最後まで勇戦した彼らこそ真の勇者だ」

 ハワイ沖海戦で防空の指揮を執った草鹿は、米軍の勇戦振りを手放しで賞賛し、嶋田や山本といった海軍の重鎮達もそれに続いた。

「米海軍は戦前の前評判どおりの強敵でした。喪失した艦艇、航空機の数こそ少なく済みましたが、被弾した艦や航空機を見れば、彼らが いかに不利な状況で奮戦したかが判ります」
「米海軍は補給の途絶と士気の低下で戦闘力が低下していたことを考慮しなければならない」

 海軍上層部の人間達はそう公言して、アメリカ海軍を見下す動きを牽制した。
 主力艦の喪失ゼロによる日米戦争の完全勝利は、少なくない人間を傲慢にさせていたのだ。嶋田や一部の人間の中には不謹慎にも旧式戦艦が 何隻か沈んでいればここまでならなかったかも知れないという思いさえあった。
 勿論、それが傲慢で、後知恵であることは判っていたが、そう思わざるを得ないのだ。そんな状況だからこそ、彼らは旧アメリカ海軍を出来るだけ 持ち上げたのだ。
 そして雄敵であった米海軍に勝ち得たのは弛まぬ努力と、後方の支えがあったからであり、今後も努力と後方支援を欠かしてはならないという結論に もっていき、それを声高に喧伝した。

「自信と傲慢は別だよ。自信を持つのは良い事だが、傲慢になって努力を怠り銃後を軽視すれば、日本海軍はいずれ弱者に転落する」

 対米戦争時に連合艦隊司令長官であり、軍神の一人とされた古賀は部下達の前でそう訓示した。
 何分、自国海軍の引き締めという目的もあったが、日本海軍が中心になって行われる旧米海軍への擁護によって、旧米海軍の名誉は少しずつで あるが回復していくことになる。
 このような動きは旧米海軍関係者にとって有難いものだった。しかし全員が日本海軍に感謝する訳でもないし、日本海軍によって親友や肉親を 奪われた者で、さらに戦後の自分達の待遇に不満を持つ者たちは枢軸側に流れていった。

「今更日本人に膝を折れるか」

 外洋海軍建設を目指していたドイツ海軍、日本海軍に倣って機動部隊を編成しようとイタリア、フランス海軍などは旧米海軍将兵の獲得に 必死だった。そして日本につき従うカリフォルニア政府のやり方に反発する者もあわせ、少なくない旧連邦軍関係者が枢軸に流れていった。

「ふむ。これでイタリア海軍も空母機動部隊が編成できると?」

 イタリアの統領ムッソリーニは自身の執務室で海軍の将校達に尋ねた。

「はい。旧米海軍の資料の接収、旧米軍関係者の取り込みは進めています。中断していた空母の整備計画を再開すれば5年以内には 本格的な空母部隊を編成できます」
「5年かね。それもこれだけの予算を必要とすると?」
「空母そのもののノウハウ、それを運用するためのノウハウと吸収しなければならない物が多く、一朝一夕には」

 これでもイタリアは十分に恵まれていた。
 大西洋大津波による影響を殆ど受けていない上、フランスやスペイン海軍のように主力艦の大半を撃沈されてもいない。勿論、地中海での 日本海軍との死闘で手痛い打撃を受けていたが、それでもリットリオ級戦艦2隻、トラヤヌス級戦艦4隻を中心とした大海軍を保有している。
 フランス海軍も必死に海軍の再建を図っていたが、国土の復興、そして津波対策によって膨大な出費を強いられている。ここで一気にフランスを 引き離せば、イタリアの地位はドイツに次ぐ欧州ナンバー2となる。

(イタリア王国こそ、ローマの後継者なのだ!)

 ドイツの専横に腹を立てているムッソリーニはここで欧州諸国を見返し、自国の地位を更に向上させるつもりだった。
 さらに彼は外相に命じて日本との接近も図っていた。ドイツと日本は不倶戴天の敵だが、イタリアと日本の関係はよくも無ければ悪くも無い。 イギリスのような裏切りもなく、むしろ地中海で堂々と戦った敵国扱いと言えた。故にまだ接近の余地はある。

「……海軍は日本海軍ともう一度戦って勝てると思うかね?」
「……正直に言いまして、軍縮中とはいえ、かの海軍と真っ向から殴りあうのは極めて不利です。基地航空隊や潜水艦部隊と連携して漸く互角かと」
「迎え撃つのが基本と」
「はい。それも北米ではなく、欧州の地で迎え撃つのが適当でしょう」

 それは日本と戦争になれば北米の植民地は放棄するしかないことを意味していた。
 そしてそれを聞いたムッソリーニは怒ることなく、納得したかのように頷いて、海軍将校達を部屋から退出させた。

「やはり日本との関係を強化して日欧の仲介者となること、これがイタリアの生きる道だろう」

 しかしイタリアが余りに弱ければ、仲介者としても機能しない。故に彼はドイツやフランスにも舐められず、日本にも自国が決して無力な 存在ではないことを示す必要があった。
 核兵器こそ作れないが、それ以外の分野については手を抜くわけにはいかないのだ。

「サンタモニカ会談のような重要な会談に私を招かなかったことを後悔させてやる」

 不機嫌そうにそう呟いた後、彼に二つの妙案が浮かんだ。

「そうだ。嶋田首相はイタリアに駐在武官として赴任していたことがある。そのときのツテを使うのも良いかも知れん。 あと日本との関係を改善するために文化面での交流を行うとしよう。まずは日本の文化を取り込み、市民に親しんでもらおう。 彼らも親日的な国を邪険にはしないだろう」

 彼の決断によって後に、日本とイタリアの関係は改善していくことになる。
 イタリア人は日本文化に親しみを持ち、イタリアの変化から日本人もイタリアの文化や料理に関心を持ち、相互の行き来が活発になっていったのだ。 だがそれは同時に日本のオの字の面々の影響もイタリアに普及することを意味していた。
 後に、イタリアの航空ショーで日本機と同様にアニメ絵の美少女が描かれた多数の『痛い航空機』が空を駆けた際、航空ショーに招かれていた 世界でも名の知れた日本海軍の某元帥が卒倒しかけた。この大戦果(笑)によって、『大日本帝国海軍に最も手痛い打撃を与えることが出来たのは イタリア軍』と言うジョークが囁かれることになる。






 あとがき
 戦後編2改訂版をお送りしました。
 次回以降は改訂前では描写が無かったメキシコ、及び北米について描写したいと思っています。
 またインド情勢ですが変更しました。フランスやドイツが茶々を入れてインドと枢軸が接近しなければ良かったのですが……。
 ここのインドは改訂前よりも酷い目にある可能性が(汗)。
 それでは戦後編3でお会いしましょう。




 それと今回採用させて頂いた兵器です。

ルバンシュ級戦艦

基準排水量=34,500t
全長=206m 全幅=33m
主機出力=オールギヤードタービン4基4軸・110,000HP
最大速力=25kt   航続距離=12kt/8,000海里
武装
42口径38cm砲 連装 4基(前部2基 後部2基)
45口径13cm両用砲    連装 10基(舷側5基づつ)
他小火器多数

舷側装甲-主装甲帯330mm
甲板装甲-装甲甲版127mm
砲塔装甲-前循324mm、天蓋124mm
司令塔-279mm


トラヤヌス級戦艦

基準排水量 29,000トン
垂線長 216m
最大幅 28m
主缶 ヤーロー缶8基
主機 オール・ギアード・タービン4基4軸 130000馬力
速力 33ノット(計画)
武装 M1909 305mm46口径 3連装3基 9門
   M1934 152mm55口径 3連装4基 12門
   M1938 90mm50口径 単装12基 12門
装甲 舷側250mm、20度傾斜
   甲板、最大120mm
   主砲塔280mm
航続距離 14ノット5500海里