第2連合艦隊から発進したピースメーカー隊は、ウィンダムを中心とした部隊に護衛されてヤキン・ドゥーエを目指した。

ヤキン・ドゥーエ側もこの部隊が核攻撃部隊と判断して、可能な限り迎撃部隊を送り込んだが、その大半が護衛部隊によって排除されてしまう。

そしてついにヤキン・ドゥーエをその射程に収めたピースメーカー隊は一斉に核ミサイルを発射した。

「これで終わりですね」

アズラエルは軽く50を超える核ミサイルがヤキン・ドゥーエに吸い込まれていくのを見て、勝利を確信した。だがその確信は次の瞬間にあっさり

ひっくり返された。そう、50発もの核ミサイルが一瞬ですべて撃破されたのだ。

「なっ何が起こったんです!?」

アズラエルの問いに、オペレータが興奮した口調で答える。

「敵の新型MSの攻撃です!」

そして新型機の映像がスクリーンに映し出される。

「あの夜逃げガンダムか。余計なことを……」

アズラエルは軽く舌打ちした。一方、ここであっさり引くわけにはいかないバークは、すかさず第二次攻撃部隊の派遣を決定した。

「それにしてもこの状況で核攻撃とは……くくく、どこまでも歴史の神って奴は」

アズラエルは自分の努力がすべて否定されたような状況に、苦笑いを浮かべるしかなかった。

そのころ核攻撃を防ぎ、その存在をアピールしたプロヴィデンスではあったが状況は苦しかった。ドラグーンシステムは確かに強力ではあったが

その消耗も激しい。機体が核動力でも攻撃用ポットを動かすには推進剤がいる。バッテリーは回収時に充電できるが、推進剤には限りがある。

そして推進剤が切れた攻撃用ポットは単なる置物に過ぎない。そしてそれはプロヴィデンスが持つ最大の攻撃方法を失うことになる。

勿論、補給を受ければ戦えるだろう。だがすでに戦線はヤキン・ドゥーエそのものに迫り、MS発進口にも攻撃が及ぶ始末だった。

「これでは……」

いくらパイロットとして、技術者として卓越している彼でも、無から有から生むことは出来ない。だがザフトはすでにそんな出来もしないこと

を可能にしなければ戦線を支えることが出来ない状況だった。

「……この戦争、ザフトの、いやプラントの負けか」

祖国の敗北は避けられない……それは祖国を守るために兵器開発に携わっていた彼としてはやりきれない思いだった。

彼が開発に携わったブリューナグも、ザクも連合の圧倒的物量に押し潰されて、戦局を覆すには至らない。それは自身がしてきたことを、思いを

否定されるようなものだった。

「だが、これ以上プラントに手を出すわけにはいかない。たとえ命を引き換えにしてでもだ」

しかし、そんな彼に復讐者が容赦なく襲い掛かる。そう、シア達がとうとうプロヴィデンスを見つけたのだ。

「くくく、見つけた、ついに見つけた!!」

歓喜の声を挙げると、彼女とその直属部隊はプロヴィデンスに向かっていった。




 プロヴィデンスによって核攻撃を辛うじて防ぎきったヤキン・ドゥーエであったが、時間がたてば第二波が来ることは確実だった。

そのときこそ、ヤキン・ドゥーエが陥落することになる。これ以上留まっても被害が大きくなるだけ…これはこの場の人間の一致した見解だった。

「議長、ヤキン・ドゥーエ放棄を提案します」

パトリックはこの進言に、質問で返した。

「残存兵力はどの程度だ?」

この言葉を聞いた高官達はパトリックがまだ戦う気だと思い慄然とした。だが答えないわけにもいかない。

「……健在な艦はマーズ、ナスカ級ゲイ・リュサック他2隻、ローラシア級トビアス・マイヤー他4隻の合計7隻です。他にローラシア級5隻と

 ナスカ級3隻が中破、或いは小破の損害を受けていますが、航行は可能です。MSの稼動機は約60機です」

「そうか……壊滅状態か」

「はい。残念ながら、ザフト宇宙軍は壊滅しました」

宇宙軍の壊滅、それはザフトの強いてはプラントの敗北を意味するものであった。重苦しい沈黙の中、パトリックは命じた。

「損害の軽い艦艇を中心に現宙域から脱出させろ。あとプラント本国に連絡して後方部隊をデブリ帯を経由させて脱出させろ。アークプロジェクト

 用に用意した資源も一緒にな」

「何をなさるおつもりですか?」

「もしプラントが壊滅すれば、生き残った部隊が報復を行うだけだ。少数部隊でもゲリラ活動は可能だ。そして地球圏に隕石攻撃を仕掛ける

 ことも不可能ではない。成功する可能性は高くは無いだろう。だが常に軍事的負担を強いればいずれ連合の経済も疲弊する」

「まさか、アークプロジェクトのコロニーをその拠点にするつもりですか?」

「そうだ」

アークプロジェクトでは移民船に廃棄コロニーを改造して使う予定だった。このために改造されていた廃棄コロニーには幾つかの生産設備があった。

少数部隊ならば、十分に賄っている資源もある。つまり移民船代わりに使うつもりだったコロニーを軍事利用することも不可能ではないのだ。

「もしプラントが生き残れば傀儡政権が出来るだろう。だがそれでことは収まらない。傲慢になった地球軍はいずれジャンク屋など中立勢力とも

 争うようになる。その時、プラントの独立のチャンスが巡ってくるだろう」

「で、ですが地球連合の軍事力は強大ですぞ」

「地球軍も一枚岩ではない。大西洋連邦の専制に、ユーラシアや東アジアは不満を募らせている。そして抑圧された人間達もまた各地で叛旗を

 掲げている。状況次第では地球軍を内部から瓦解させることも可能だ。そのときこそチャンスが生まれる」

「つまりそのときに備える為に優秀な人間を逃すと、プラントの未来のために」

「そうだ。評議会議員からも何名か共に脱出してもらう」

そういうと、パトリックはユーリに顔を向ける。

「君もついていってくれないか? 私としては心苦しいが……」

「非才の私が役に立つのであれば喜んで。プラントの未来に貢献できるとなれば、息子も喜ぶでしょう」

「すまない、君の奥方には迷惑をかける」

「いえ、お気遣い無く。それより議長はどうなさるおつもりですか?」

「実働部隊の大半を失った軍の最高責任者がおめおめと逃げるわけにはいかん。ここで最後まで戦って責務を果たす」

「自決されるおつもりですか」

「ヤキン・ドゥーエは、味方が脱出するまで戦う。もし味方の脱出が終わるまで粘れることが出来れば降伏する。

 だがこの作戦への参加は強制しない。非戦闘員と脱出したい人間は脱出させる」

そう言ってパトリックは脱出希望者を募った。彼自身としては3割残れば御の字と思っていた。だがその結果は裏切られる事になる。

「全兵員の半数が残るだと?」

「はい。脱出させるのは、若者だけです。それも年配の兵士が無理やり脱出するように説得したせいです」

この報告にパトリックはやりきれない顔をした。

「すまないな。皆家族が居るだろうに」

だが司令部で残留を希望したオペレータたちは、皆不満そうな顔一つせず任務を続ける。

「それでは、頼むぞ。ユーリ」

「議長こそお気をつけて」



 一方で、ヤキン・ドゥーエが核攻撃を受けたとの報告とパトリックの命令を聞いたエザリアは早期に彼を排除する必要を痛感した。

彼女は完治していない体にも関わらず、軍事司令部で指揮をとっていたゆえに、もはや趨勢は決したことが分ったのだ。

「このまま戦いが長引けば、プラントは再起不能な損害を被る」

すでに人的損害は凄まじいものになっている。これ以上死者を出せばプラント社会の再建は困難になるだろう。これに加えて健在だった後方部隊を

手放せば、プラントの再建は不可能に近くなる。彼女は遠い将来の独立よりも、まずは明日の国民の生活を選んだ。

彼女はデュランダルに早期にパトリックを消すように命じた。デュランダルはヤキン・ドゥーエの指揮系統が未だに健在なために手を出すのを

躊躇っていたが、これ以上手をこまねいていれば拙い状況に陥ることが分っていたので、彼女の命令に従った。

デュランダルは密かにヤキン・ドゥーエに潜入させている同志と暗殺の実行部隊に、素早いパトリック排除を命じた。







                青の軌跡 第48話






 ヤキン・ドゥーエから健在な艦艇が次々に脱出しはじめたことは即座に連合艦隊も確認した。

「連中、ヤキン・ドゥーエを放棄するつもりでしょうか?」

アズラエルの考えに対して、ハリンがそれを否定する意見を述べる。

「敵の指揮系統が壊乱したという情報はありません。戦力の温存を図っているのでは?」

「温存? 連中が撤退して護るべき場所といったらプラントしかありませんよ? まさか連中本気で本土決戦をするつもりでしょうか?」

「そこまでは分りません。ですが彼等を見逃すのは好ましく無いでしょう。恐らく大きな禍根になります」

「それは僕も同意見です。少数とはいえザフトは侮りがたい敵です。ゲリラになったら目も当てられません。まあバーク提督もそのあたりのこと

 は分っているでしょう」

アズラエルの言う通りバークは脱出しようとするザフト軍の撃滅を命じた。だがそれはアズラエルにとって頭の痛いことに彼がいるブルースウェア

と第8艦隊に命じられたのだ。アズラエルはこの命令を聞いて若干顔を引きつらせた。

「お望みであれば後方に移送いたしますが?」

ハリンの言葉にアズラエルは暫く考え込む。自分が移動している間に敵に逃げられたら年寄り連中に何を言われるか分った物ではない。

だがこのままついていけば死ぬ可能性がある。深刻な顔をして考えた後、アズラエルは結局、サンダルフォンに残ることを選ぶ。

「僕を後方に移送している隙に連中に逃げられたらどうしようもありません。さっさと行きましょう」

アズラエルはサンダルフォンの防御力と、周辺に張り付かせている護衛部隊の能力を信じることにしたのだ。かくして大規模な追撃が開始された。

パトリックはヤキン・ドゥーエそのものを囮にして脱出させるつもりだったが、連合にはヤキン・ドゥーエ攻略も、追撃戦の双方を同時に行う

余裕はまだあったのだ。

「後方より敵艦隊接近!」

マーズのブリッジでは、後方から追跡してくる連合艦隊の姿が確認できた。その数は実に80隻。対するザフトは20隻足らずだった。

脱出することも難しいといえるが、ザフト側は恐るべき方法で脱出しようとした。そう蜘蛛の子を散らすように逃げ始めたのだ。

「小集団での脱出を図るつもりか!?」

ハリンはこの行動に舌打ちした。連合軍は組織だって動くと強いが個々人の戦いとなると、いささか苦手なのだ。尤も彼らをより驚かせたのは

ザフト艦隊がプラント本国を目指すことなく、別の宙域に向けて脱出していたということだった。敵前逃亡とも言われても不思議ではないその

行動をハリンとアズラエルは不審に感じた。

「ザフト軍はまるで別の場所を目指しているようです。少なくともこの航路ではプラント本国にはいけません」

「まさか別の拠点があるということでしょうか?」

「可能性はありますね。だとすればますます彼らを逃すわけにはいきません。バーク提督に増援を要請しましょう」

ヤキン・ドゥーエの戦いはほぼ決着がついたはずだった。確かに脱出しなかった艦艇や地上MSであるバグゥを固定砲台代わりにして必死に抵抗

しているものの、その程度の抵抗を潰すのなら3個艦隊もいらない。だがアズラエルが出した艦隊規模の増援要請は、バークによって拒否された。

彼はまずヤキン・ドゥーエを全力で潰すことを優先したのだ。だがアークエンジェルとドミニオンの派遣は認めた。

アークエンジェル級2隻のみ送るという返答を見て、アズラエルはある決断を下した。

「仕方ありません。核を使うとしましょう。核兵器なら簡単に戦艦を潰せます」

「核を使うのですか?」

「いまさら、ためらう必要はないでしょう。味方の被害は最小限に、敵に与える被害は最大に、です。それに兵士たちも趨勢が決まったあとで

 死ぬのは無念でしょう?」

「理事は核兵器を使うことを躊躇わないのですか?」

「心情的には抵抗はありますよ。ですが味方の兵士に死んでこいと命じるよりはましです(遺族年金なんて支払いたくないですよ)」

命の危険に加えて、私兵であるブルースウェアに被害がでると、結構財布にダメージを受けることもアズラエルに核の使用を決断させた。

「問題はありませんよ。ハリン司令官。僕が許可するんですから」

そういうと、アズラエルは残敵掃討のために核兵器の使用を許可した。かくしてピースメーカー隊が次々に出撃していく。

「連中め、また核を使う気か!」

連合の動きを察知したハイネは、ピースメーカー隊を撃破しようとするが、それをトライデントが阻む。火力ではミーティアに迫るものを

持つトライデントの前に、さすがのハイネも梃子摺る。加えてウィンダムやダガーL、ザムザザーが現れてピースメーカー隊を攻撃する

どころではなくなった。

「くっ!!」

フリーダムとジャスティスの動きが牽制されたために、ザフト艦隊は追撃部隊の攻撃で相次いで撃破されていく。ばらばらで逃げていたために

核兵器で一網打尽ということはないが、核兵器の直撃を受ければ一撃で戦艦は消滅する。

MS部隊が健在ならば、メビウスの接近を許すことはなかっただろう。だが、ザフトのMS部隊は壊滅状態であり、対空砲火だけでは連合軍MS

やメビウスの接近を阻止することはできなかった。核の業火によってザフト艦は沈んでいく。

そしてザフト軍の切り札の筈のマーズにも魔の手が及ぶ。ダガーL6機とウィンダム3機がそれぞれ左右両舷から迫る。食い止めるべきフリーダム

とジャスティスはトライデントに拘束されていた。マーズは必死に応戦するが、最終的に6機の攻撃を許してしまう。

6機の放ったビームはマーズの対空火器を次々に潰していき、船体そのものも穴だらけにしていく。これによって元々薄かった弾幕は消滅した。

そしてその隙を突くかのように、マーズの真上から核兵器を装備したメビウスが迫る。

「回避しろ、艦長!!」

ハイネはそう絶叫するが、先ほどの攻撃で対空能力と速度が低下したマーズに、核ミサイルを防ぎきる能力は無かった。

3機のメビウスから放たれた3つの核ミサイルは、その全てがマーズに直撃した。正視に耐えぬ閃光が収まったとき、マーズの艦影は無かった。

「いや〜早い早い」

あっという間に消滅していくザフト軍を見て、アズラエルは感心した。

(こんなに便利だったら、もっと早く使っておくべきだったかもしれないな……いや、あまりポンポン使うのは問題があるか)

同時にアズラエルはこれでケリはついたとも判断した。

(さて、あとは戦後処理だな)

しかし好事魔多し。サンダルフォンのブリッジに、オペレータの悲鳴のような報告が響く。

「ジャスティス接近!!」

スクリーンの先には悪鬼のように友軍を蹴散らして迫り来るジャスティスの姿があった。

「うぉおおおおおおおお!!」

絶叫とさえ言える金切り声を上げてハイネはサンダルフォンに迫っていた。通信を傍受して連合の旗艦であることをハイネは知っていたのだ。

尤もすでに逃すべき友軍は核攻撃によって壊滅状態。パトリックから部隊を託された評議会議員達も、核攻撃によって乗艦もろとも消滅した。

僚機であったフリーダムは、トライデントの集中攻撃を浴びて爆発四散した。勿論、ハイネは引き換えにトライデントを撃破していた。

だが結局、彼が護ろうとした者は、全て死んだ。そしてこの状況で彼がなすべき事は唯一つ。この状況を作った連合軍に一矢報いることだ。

「敵の大将だけでも道連れにしてやる!!」

目の前に立ちふさがる護衛艦に、大口径のビームやミサイルを叩き込み、次々に排除する。

だが補給を満足に受けていない事で弾薬と推進剤が尽きる。するとハイネは即座にミーティアを放棄して身軽にする。

「何をしているんです! さっさと撃ち落すんです!!」

アズラエルは味方を排除して真っ直ぐにこちらに向ってくるジャスティスを指差して叫ぶ。

これを受けてカラミティ、フォビドゥン、レイダーが相次いでジャスティスに向った。フォビドゥンとカラミティからビームが撃ち込まれる。

しかしそれを常人を逸した動きでジャスティスは次々に回避する。しかしその回避行動を取った直後、別働のウィンダムが攻撃を浴びせる。

ビームライフルを持った右腕と左膝から下が砕ける。加えて頭部もビームの直撃を受けて粉々に吹き飛び、メインカメラが死んだ。

だがそれでも止まらない。ジャスティスは12隻の護衛艦艇の対空砲火を掻い潜り、ついにサンダルフォンの目前に達する。

「なっ!!?」

視認できるくらいの距離まで接近してきたジャスティスを見て、アズラエルは腰を浮かした。だが彼に出来たのはそれだけだった。

そして彼の視界に映る物全てがスローモーションのように遅く流れていく。

(体当たりする気か、まずいやられる!!)

このとき、アズラエルは走馬灯を見たような気がした。だがその直後、彼を現実に引き戻す声がブリッジに響く。それはアズラエルが、いや正確

には天城修が主人公には相応しく無いだろうと思っていた人間の声だった。

『サンダルフォン、援護します!!』

その直後、リニアガンから発射された弾丸が相次いでジャスティスに命中した。ジャスティスはPS装甲のせいで破壊こそ免れたが、衝突コース

から大きく逸れた。そしてその直後、サンダルフォンを護るように1機の黒いガンダムが現れる。

『大丈夫ですか、アズラエル理事?』

「ええ。何とか」

『そうですか。それなら、この隙に逃げてください。あの機体の相手は僕がします』

「感謝します」

『僕としても貴方が生きていないと困りますから』

この言葉の後ろに、アズラエルが生きていることが、キラにとって利益になるという意味があることを彼は悟った。

「言うようになりましたね」

『貴方の影響ですよ』

そういうと通信が途切れる。アズラエルはしばらく呆然としたあと、形容しがたい顔をして笑い出す。

「く、くくく、あはははは」

ハリンたちはアズラエルが気でも狂ったのかと思うような笑いが、彼の口からあふれ出る。

「り、理事?」

ハリンは気遣うように呼びかける。だがアズラエル、いや天城修はそんな気遣いを全く気付かなかった。

「あの甘ちゃんだった、あの餓鬼が、あれがあそこまで言うようになるとは。それにしても最後に美味しいところを掻っ攫うのは相変わらずか。

 俺はこれだけ苦労しているのに、あいつは。全くヒーローという奴はどこまでもヒーローなんだな」

一方、そのキラの操るストライクノワールは、2本のビームブレイドを抜いてジャスティスに切りかかった。ジャスティスは残された左腕に

ビームサーベルを装備して戦うが、これまでのダメージが蓄積していたためか、次第にキラに押される。そして最終的にキラによってジャスティス

は真横に両断され、撃破された。






 ジャスティスが撃破された頃、コートニーはシア達の集中攻撃を受けて苦戦を強いられていた。シアはプロヴィデンスの全方位からミサイル

を撃ち込み、加えて彼女の部下達はビームを次々に放つ。

プロヴィデンスは、使える攻撃用ポットで反撃を加えるものの推進剤が底をつきかけており、その動きは精彩に欠けていた。たとえどんな強力な

MSでも補給を受けられなければ、十分な性能を発揮できないことを、その身をもって示していた。

「死になさい、この化け物が!!」

彼女は執拗にコートニーを追い詰める。

「貴様らさえいなければ!! お兄様は死ななくて済んだのに!!」

これにコートニーは反論する。

「ユニウス7を崩壊させ戦争を引き起こしたのはお前達だ!」

「お前達のような化け物が現れたのが全ての原因だ! お前達さえいなければ、私は何もかも失わずに済んだ!!」

「コーディネイターの誕生を望んだのはナチュラルだろう!」

「ええそうよ。だから無知なナチュラルも殺してやる! この事態を引き起こした人間をひとり残さず殺してやる!!」

彼女は魂の絶叫を放つと、これまで以上の精度でビームを放つ。それはプロヴィデンスは右足と左腕が吹き飛ばし、機体のバランスを崩させた。

そしてそれによって生じる隙を見逃すシアではなかった。

「お兄様の仇!!」

彼女の乗るウィンダムは、一気に接近するとプロヴィデンスのコックピットにビームサーベルを突き刺した。

「いずれ化け物達も皆殺しにしてやる! 生まれてきたことを後悔するように!! お前は地獄の底で、指をくわえてそれを見ていなさい!!」

この直後、ヤキン・ドゥーエ近傍でひときわ大きな爆発が起こった。






 プロヴィデンスが撃破された直後、辛うじて陥落を免れていたヤキン・ドゥーエの司令部に数名の武装した兵士が飛び込んだ。

「何事だ!?」

パトリックは突然現れた武装集団に、詰問したが、そこから帰って来た答えは銃声と銃弾だった。眉間を撃ち抜かれて断末魔の悲鳴も漏らす

ことなくパトリックは死んだ。プラント最高評議会議長としてはあまりにも呆気ない最後だった。

次に呆然とした司令部のオペレータたちに向けて、銃弾が撃ち込まれる。彼らは助けを呼ぼうとするが、何者かによって通信が遮断されてしまい

結局助けを呼ぶ事が出来なかった。そして1分足らずでヤキン・ドゥーエ司令部は壊滅した。

そして実質ヤキン・ドゥーエを乗っ取った兵士達は、ザフト軍上層部しか知りえないコードを使ってヤキン・ドゥーエに自爆指令を出した。

それはヤキン・ドゥーエの放棄を意味するものであった。

「ヤキン・ドゥーエを放棄する? 議長の命令か?!」

「いや、議長が戦死したとの報告が」

混乱するザフト軍司令部。だが事情を知っていたエザリアは、パトリック暗殺が成功したことを確信した。

「議長の戦死により、私が政権を引き継ぐ」

そう宣言したあと、エザリアは苦い顔で宣言した。

「プラントは地球連合に対して降伏を申し込む」

「し、しかし……」

「ではザフト軍に継戦能力はあるのか? すでにザフト宇宙軍は壊滅状態だ」

この言葉に強硬派の人間は沈黙した。すでにヤキン・ドゥーエと宇宙艦隊は失われたのだ。もはや逆転は不可能であった。

「これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかないのだ」

そういうと、改めてオペレータに地球連合軍に降伏を申しこませた。しばらく笑い続けていたアズラエルだったが、プラントからの降伏の申し出を

聞くと即座に気分を切り替える。そしてバークに命じて全軍に戦闘停止命令を出させた。

かくして長らく続いた地球連合軍とザフト軍の戦争は終幕を迎えた。前者の完全勝利という形で。