大西洋連邦は南アメリカ戦線の事実上の放棄を決定し、戦線をパナマ基地を基点とした防衛ラインに下げる決定を下した。

ただしそれは南アメリカの独立を許すものではなかった。むしろ大西洋連邦はこれを機会にして、自国に反抗的な南米諸国への締め付けを図る

機であった。連邦軍は北米から陸海空軍部隊を多数パナマに送り込み、南米の反乱軍と増援に来るザフトの完全撃滅を目論む。

戦力比で言えば大西洋連邦軍が圧倒的優勢であり、南米軍、ザフト軍が如何に戦おうとも逆転は不可能と考えられた。

だがそれゆえにアズラエルは警戒を強めざるを得なかった。

「何を考えている? こんなことをしても終戦が数ヶ月遠のくだけだ。それにどうして南アメリカ軍がこの動きに同調する?」

エネルギー事情を改善し、大軍を編成しつつある地球連合軍。これまでの消耗から立ち直れず、切り札すら失ったザフト軍。

戦争の勝利者は明らかだった。本当なら勝利者側である地球連合軍に媚を売るのが当たり前なのではないのか……そう彼は考えたのだ。

尤もこれは日本人らしい考えがあると言える。日本人は恨みは水に流すが、世の中には恨みを岩に刻みつける民族も存在する。そして気位の

高い民族が恨みを抱くと非常に厄介な羽目になる。ちょうど南米がその状態だった。

加えて南アメリカ合衆国はもともと貧しい国や、民族問題を多数加える国々の集合体であった。これらの問題が複合的に作用して今回の蜂起に

繋がったのだ。アズラエルに表意する修はもともとは現代日本人。そんな彼がそんな敏感な問題を察知するのは困難だった。

利を与えれば問題ないというのはある意味で傲慢なやり方であり、時にしてそれは人を傷つけるのだ。

「まあいい。今はブルーコスモス過激派の監視と、南米への物資の運び込みの阻止が先だ。徹底的に叩き潰してやれば大人しくなるだろう」

南米方面軍を泥沼にはまる前に撤退させるようにオースチン大統領に進言したのはほかならぬアズラエルだった。

彼は早期に南米方面軍を撤退させる一方で、各地から部隊をパナマに集結させるように各方面に圧力をかけた。勿論、物資供給も積極的に行い

軍の行動の支援も行っている。彼としては決起させた南米軍をパナマまでおびき寄せて大軍をもって一気に粉砕するつもりだった。

仮に相手が持久戦を取るのなら、南米の主要拠点にミサイル攻撃、空爆を行い、さらに海上封鎖で痛めつける予定だ。

「問題はブルーコスモス過激派の動きだな………」

ブルーコスモス過激派は、南アメリカ騒乱の仕掛け人がザフトであると喧伝。さらにコーディネイターによるテロが如何に脅威であるかを喧伝

して民心の動揺を誘っていた。かつてコーディネイターの犯罪に苦しめられていたナチュラルの市民の中に、コーディネイターへの警戒心を

与えるには十分な喧伝であった。アズラエルはこれまでに報告書に書かれていた内容を思い出して頭を抱えた。

「このままだとコーディネイター系市民への嫌がらせが増える。最悪の場合、これまで築いてきた協力体制が瓦解する。これは避けないと」

連合側のコーディネイターはそれなりに戦争で役に立っている。ここで彼等を敵に回したり、能力を無駄にすりつぶすような真似は避けたい。

アズラエルはそこまで考えてため息をついた。

「折角、折角、戦争の終わりが見えてきたのに、まったくどいつもこいつも・・・・・・」

プラントの本土防衛の要であるボアズを陥落させ、切り札であるジェネシスをも破壊した。戦争の終了は目前と言えた

(問題はジブリールだな。あいつは南米でなにやらたくらんでいる。それに連合内部の戦争継続派も色々と画策しているようだし)

戦争は早期に終わらせなければならない。圧倒的国力を誇る連合とは言え、これ以上長々と戦争を続けられる余裕は無い。国庫もすでに底を

つきかけ始めているとの報告もある。一刻も早く戦争を終わらせ、戦時体制を解かなければ大きな禍根を残す。アズラエルは早期に南米軍を叩く

為に、本土に残っている強化人間を新型Gに乗せて、パナマに送ることを指示した。しかし彼はそれでも安心していなかった。

(ジブリールがどんなことをしたかをさらに徹底的に調査する必要がある。脅威の芽は早めに摘み取らないと)

だがジブリールはかなり慎重に行動しており、中々尻尾をつかめないとの報告もある。これ以上詳しく調査をするには、誰かの協力がいる。

そして彼には心当たりがあった。勿論、かなり高い料金を要求されそうだが、信頼度のおける人間に。

「またクラウスに手伝ってもらうか……はあ、また借りが出来るのか。今度は何を吹っ掛けられることやら」

アズラエルは取り敢えず、今後は要らない出費を極力減らそうと決心した。

だがこのとき、アズラエルは恐るべき陰謀が推し進められていることを、いまだに知る由も無かった。





                          青の軌跡 第39話






 大西洋連邦軍南アメリカ方面軍は、大西洋連邦参謀本部から出された撤収命令を受けて撤退準備を進めていた。

飛行場に大型輸送機が着陸し、各地から撤退してきた南アメリカ方面軍部隊が乗り込み始める。戦闘機部隊、ヘリ部隊は周囲の警戒を続ける

が一部の部隊はすでにパナマ基地に撤収を開始していた。撤収しつつある部隊の中には方面軍司令部の姿もあった。

「全く、まさか南米から一時的にはとは言え、撤収するはめになるとは……」

飛行場の一角に設置された司令部で、南米方面軍司令官ジェレミー・カッツは忌々しげに呟く。

「仕方ありません。現状で南米に留まれば被害が増えるだけです」

幕僚の言葉に、分っていると言ってカッツは続ける。

「旧南米軍のコーディネイターどもの追跡は?」

「分っていません。どうやら、南米住民の中に彼等を庇っている勢力があるようで。それに旧南米政府も非協力的でして」

「くそ、裏切りものどもが」

「金欲しさにプラントに地球を売り渡そうとした連中ですから……」

「まったく、連中はこの戦いの重要性がわかっていない。我等が負ければコーディネイターが世界を支配するかもしれないのに」

連合軍軍人の多くは、この戦いが地球圏の支配権をかけた戦いであると思っていた。そんな彼等からすればコーディネイターとは地球圏支配を

目論む人類の亜種であり、本大戦は人類(ナチュラル)の生存が掛かった戦いであった。。

「所詮は学の無い無知な連中です。南米は以前として貧しいうえに教育水準が低いですし」

「ふん。連中が貧しいのは民度が低いことも理由だろう。信頼できる人間が少なければ自然とマトモな商売はできなくなる」

「貧すれば貪ずる、といったところでしょう」

「限度がある………そういえば、マーシュはどうした? もうそろそろ連絡にきても良いはずだが」

「撤収準備に手間取っているのでは? 何しろ南米軍のうち、連合軍に忠誠を誓う連中も連れて行くそうなので」

「ふん。放っておけばよい物を。所詮は若造か。全くあんな若い連中が幅を利かせるとは……」

司令部で、カッツがマーシュの不手際を嘲笑っているころ、当の本人は仕事を差し置いて、ある人物、いや女性と会っていた。

師団司令部の司令官室では、スーツ姿の女性がにこやかな顔でマーシュに話しかける。

「順調そうね、マーシュ准将」

「勿論です。すべては計画通りに。ですがいささか心苦しいですな。青き清浄なる世界のためとはいえ、友軍を陥れるのは」

「仕方ないわ。今のままではあの忌々しいコーディネイターどもが残ってしまう。そうなれば、いずれ同じことが起こる」

「再度の大戦が起こると?」

「アズラエルはあの連中がおとなしくしていると思っているようだけど、それは甘いわ。マリア・クラウスはナチュラルとコーディネイターを

 交配させることで、徐々にコーディネイターをナチュラルに戻そうとしているけど、それも危険」

彼女の言うとおり、遺伝子を改造した生物と、していない生物が交配していくことで、何かしらの問題が起こる可能性は無いとは言えない。

「連中のやろうとしているのは、単なる人体実験。そんな無駄なことをするよりも、さっさとこの世界からコーディネイターを消し去ったほう

 がよっぽど良い」

「それがジブリール様の意思でもあると?」

「そう。お兄様は、誰よりもナチュラルのことを思っている。一時的な金の問題で左右されてはならない問題よ。これはね」

スーツ姿の女性、プリンシア・ジブリールはそういうと、司令部を後にすることを告げる。

「もうお帰りになるので?」

「ええ。このあと、旧南米軍の将校とあう約束があるから」

「お気をつけて。どうやらアズラエルは我等の動きにうすうす気づいているようです」

「それは本当?」

「はい。ブルーコスモスの南米支部が我々の身辺を調査しているようです。アズラエル理事が支部を動かしたと思われます」

「あの金の亡者が……」

シアは忌々しそうに呟く。これを見て、マーシュは苦笑しながら言う。

「ダミー情報を流してかく乱は続けています。恐らく南米独立戦争による混乱が拡大すればそうそう真実には辿り着けないでしょう」

「人質と各証拠の始末は?」

「すべて順調です。私とて処刑されたくはありません」

「……情報操作は万全の体制で行いなさい。連中の、あの馬鹿どもの手はかなり長いわ」

「あまりアズラエル理事を卑下するのもどうかと思いますが。彼にも目指すべきものがあるようですし」

「ふん。奴は単に金が欲しいだけよ。まったくそれに踊らされる政府も財界もどうにかしているわ」

そういった直後、彼女は暗い、ひたすら暗い笑みを浮かべる。

「でも、それもここまで。すべてはお兄様のシナリオのままに」





 大西洋連邦軍南アメリカ方面軍が撤収しつつあることを知った旧南米軍は、南アメリカ解放のときが来たとして決起を決意していた。

大西洋連邦の支配に対して不満を持っていた軍人達、そして住民達がこの動きに賛同。よって、各地でかなりの規模の部隊が集結していた。

戦車、航空機、そしてヘリ。従来の主力兵器であったこれらに加えて、少なくない数のMSも決起軍の中に見られる。そしてその中には連合軍の

中でも良く知られた機体があった。かつてザフトに恐れられた切り裂きエドの愛機であるソードカラミティだ。

「いよいよか」

切り裂きエドこと、エドワード・ハレルソンは、気合の入った表情で呟く。彼の愛機の通信回線から、決起軍の指揮官の演説が流れているが

エドワードの耳には入っていない。彼の脳裏に在るのは、これから起こるであろう南米独立戦争のことだけであった。

だがそんな彼の思考を中断させる声がコックピットに響く。

『エド、そっちの準備は?』

「大丈夫だ。それよりジェーンのほうはどうだ?」

『こちらも準備はできてる。あとは作戦開始を待つだけ』

エドワードの恋人であるジェーン・ヒューストンは、この決起戦に参加していた。勿論、すべてはエドワードのためだ。そのことを知っている

エドワードはジェーンに対して多少ながらも引け目を感じていた。

「……すまないな。こんなことに巻き込んじまって」

『そんなことを気にすることはないわ。私からすれば置いていかれるほうがよっぽど堪えるし』

「はは、そういえばそういう女だったな」

『だから貴方も惚れたんでしょう?』

「まあな」

『なら今はそんなことを気にするより、生きて帰ることを考えましょう』

「そうだな」

『ねえ、エド』

「何だ?」

『もし、この戦いで生き残れたら………』

ジェーンが言いづらそうに、言葉を濁していると、決起軍司令部から移動の開始が告げられる。

「ジェーン、その台詞は帰って来てから聞かせてくれ。何、心配するな。必ず帰ってくる。俺も、そしてお前もだ。死なせるものか」

そして彼等は戦場に赴く。

この南米軍の動きと連動するように、南アメリカに派遣されたザフト軍も攻撃準備に取り掛かっていた。潜水母艦から運び込まれた物資、さらに

ジン、ゲイツを中心にしたMS部隊が輸送機によって各所に輸送されていく。

従来ならこれを妨害するために攻撃してくる連合軍は、南米の一時的な放棄、さらにパナマ基地へ兵力集中によって全く手を出さない。このため

彼等の移動は比較的順調に進んだ。

移動指揮車で部隊の配置状況を表示しているスクリーンを見たクルーゼは満足した様子で言った。

「順調だな」

この言葉を聴いてオペレーターの一人がさらに状況を詳しく説明する。

「はい。南米軍も配置に付きつつあり、あと12時間で作戦開始が可能になります」

「そうか。南米軍の様子は?」

「意気軒昂とのことです。連中はよっぽど大西洋連邦の支配に不満を抱いていたようです」

「まぁそうだろうな」

大西洋連邦は確かに、南アメリカにエネルギー供給を行ったり、各種物資を提供したりして懐柔をしたものの、独立を許しはしなかった。加えて

パナマのマスドライバーが生み出す利益は事実上、大西洋連邦が独占していた。戦争初期での侵攻と併合と相成って大西洋連邦に対する反感は

非常に強いものになっていた。

「ジャンク屋からの物資は?」

「ジャンク屋から受け取った物資ですが、予定の備蓄の60%程度にとどまっています」

「……大西洋連邦、いや地球連合からの圧力か?」

「そのようです」

「対応が早いな。まあいい。60%もあれば現状では十分だろう。それより輸送機の安全には注意するように伝えろ」

クルーゼとしては撤退する際に輸送機を確保しておかないと話しにならない。何せ常識的に奮戦してもパナマを占領するのは不可能であり、仮に

万が一にでもパナマを占領したとしても、怒り狂う大西洋連邦軍によって揉み潰されることは目に見えている。

尤もパナマを占領できれば、地球連合軍の宇宙での反攻を遅延させられるので、非常に見返りは大きいといえるのだが、それは成功率が著しく

低いと言わざるを得なかった。ザフトとしてはパナマ基地に打撃を与えられれば僥倖、多少でも連合を地上に足止めできれば成功と考えていた。

(まあせいぜい、ナチュラル達には頑張ってもらいたい物だな……)

クルーゼは自軍の兵力を極力温存しつつ、大西洋連邦軍に被害を与える責務があった。そのために、彼は南米軍を盾にするつもりだった。




 南アメリカ合衆国軍決起迫るとの情報は、地球から遠く離れたプラント本土にも届けられていた。

執務室でパトリックは、南アメリカ動乱に関する書類を受け取るとことこまかく読み、今後のプラントに与える影響を考えた。

(これで多少は時間は稼げるか……いや、そうそう長い時間は稼げまい)

パトリックは南米軍の壊滅が時間の問題であると判断していた。パナマ基地にはアラスカ基地やカリフォルニア基地からが抽出された部隊が

集結しつつあった。加えて北米東海岸に拠点を置く第二洋上艦隊も出撃準備に取り掛かっていた。

「凄まじい物量だな……」

パトリックは莫大な正面兵力もさることながら、その兵力を支える連合軍の生産力に恐怖した。南米軍が蜂起してからの短期間で大兵力を動かす

だけの力はザフトには無い。

「私はナチュラルの力を侮っていたのかもしれないな……」

ナチュラルなぞ数だけであり、腐ったドア同然。コーディネイターの力を結集させれば打ち破ることは可能だというのが彼等コーディネイターの

考え方であった。だが実情は違った。ナチュラルはMSを模倣するだけではなく、ザフトの技術を上回る兵器を開発して見せた。

ビームライフル、PS装甲、ミラージュコロイド。それらはザフトですら実用化に至っていないものばかりだった。それはナチュラルにできる事は

コーディネイターなら余裕で出来る。だがコーディネイターが出来ることはナチュラルには絶対に出来ない……そんな考えを否定した。

そして連合軍は各地で戦力を蓄えると、一気に反攻を開始した。アラスカ、パナマで大敗し、一旦は占領したアフリカ、西欧からは叩き出された。

圧倒的物量もさることながら、地球連合軍はMSの運用も習得し、従来兵器と巧みに組み合わせることでザフト以上の戦いをしてみせた。

兵士の数で圧倒的に劣るザフトは、MSに頼らざるを得なかった。それ故にMSによる優位が立ち消えになった瞬間、彼等の優位性も消滅した。

「私はとんでもない思い違いをしていたのかもしれん……」

だがパトリックには懺悔するような余裕はない。まず、この南米での動乱を利用してプラントを少しでも有利な立場に導かなければならない。

「アークプロジェクトの準備を急がせよう。あとは例の作戦だな……うまくいけば多少は降伏の条件を緩和できる」

パトリックの視線の先には、デュランダルの原案をザフト作戦本部がアレンジしたオペレーション・ロベリアに関する書類が置かれていた。

「私は諦めん。まだ諦めはしない。たとえ何と罵られようとも、責務は果たしてみせる」




 ザフト軍の展開が完了するのと前後して各地で旧南米軍が蜂起した。大西洋連邦軍は自国民を守りつつ撤退していたために旧南アメリカ合衆国

首都などの各地の主要都市はあっさり南米軍の手にするところとなった。南米方面軍が残っている都市は未だに連邦軍が維持しているが陥落は

時間の問題と言えた。

だが、この戦況は大西洋連邦を筆頭にする地球連合諸国にとっても判りきった結果であった。

「南米の主要都市はほぼ決起軍の手に落ちましたか」

アズラエルは執務室で聞いた報告を聞いて何の感慨も覚えなかった。アズラエル財閥は在南米の資本の多くを脱出させていたので大した被害は

なかったし、すぐに南米軍を叩けるという自信もあった。アズラエルはサザーランドに連絡をとって最新の状況を確認した。

「例の新型MS部隊は?」

『すでに高速輸送機で輸送しています。2時間も経たずに現地に展開できるでしょう』

「南米方面軍は?」

『半分以上は撤収に成功しています。ですがどうやら司令部と一部の部隊の移動が遅れているようでして』

「司令部と一部の部隊が?」

『はい。コーディネイター系の兵士を含んだ部隊の撤収が遅れているようです』

「南米方面軍司令部が意図的に彼等を盾にしているわけじゃあないですよね?」

『いえ、南米軍のゲリラ攻撃が執拗のために撤収に梃子摺っていただけのようです。このため1時間以内に周辺地域を空爆し撤退を支援します』

「そうですか」

この報告を聞いて取り敢えずアズラエルは満足した。それゆえに彼は穴を、ジブリールが掘った穴を見落とすことになる。




 アズラエルの知らぬところで、陰謀を推し進める人間達は、大胆なことに連邦の膝元で謀を推し進めていた。

その足元のひとつであるパナマ基地の一角の部屋に置かれた部屋で、シアは部下から南米の状況についての報告を受けていた。

「予定どおり各地の南米軍は蜂起。主要都市の多くを制圧した模様です」

「そう。すべては順調のようね。南米方面軍司令部は?」

「予定通りいまだに現地です」

「そう。『あの連中』は?」

「すでに配置についています。すべては滞りなく進んでいます」

「アズラエルや大西洋連邦がこちらの動きに気づいた様子は?」

「アズラエルにはダミー情報などでかく乱していますし、政府内部の同士が情報隠蔽に協力しているので、こちら動きにはまだ気付いていません」

「そう、それならいいわ。さて・・・・・・」

そういってシアは右腕の腕時計を見て時間を確認する。そして謡うように言った。

「南米動乱第二幕の幕が開ける。私達は脚本家、私達は黒子、私達は端役、私達は観客。楽しみましょう。このすばらしき時を。愚者達の饗宴を」

南米動乱第二幕の、血で血を洗う饗宴の幕開けが、宣言された瞬間だった。

主演は南米軍、大西洋連邦軍。端役はザフト、そして彼女達。ブルーコスモス過激派のシナリオの描くまま、南米は戦乱の渦に飲み込まれていく。







 あとがき

非常にお久しぶりです。earthです

青の軌跡第39話をお送りしました。駄文のうえに短かったにも関わらず、最後まで読んでくださりありがとうございます。

ザフトは悪あがきを続けます。加えてブルーコスモス過激派の陰謀もいよいよ本格化し情勢は混迷化します。

さて、いよいよ次回は第二次パナマ基地攻防戦になります。奇策をもって対抗する南米軍に大西洋連邦軍は苦戦する予定です。

そしていよいよ動き出すジブリールの陰謀。アズラエルは次第に窮地に立たされることに。

青の軌跡第40話でお会いしましょう。