嗚呼、我ら地球防衛軍〈4〉




 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第16話

 ヤマトがテレザートに向かっている頃、太陽系ではナスカ艦隊の数少ない生き残りと言える潜空艦(ステルス艦)が地球側の輸送船を襲おうとする事件が多発していた。
 防衛軍司令部では連日、潜空艦の対策会議を開いていた。

「『海上護衛戦』再びと言ったところだな」 
「ですが、参謀長の主張で配備された一式偵察機(コスモタイガーU早期警戒機仕様)による哨戒網によって
 敵艦の動きは封殺できています」 
「だが撃沈できたのは1隻だけだ。まだ何隻かが太陽系に潜んでいる」

 当初は手間取っていた防衛軍だったが、参謀長が予め手配していた哨戒網が機能しだすと、輸送船団への被害は激減した。
護衛空母に改装された旧式の大型艦(『えいゆう』など)、ソナー(殆ど閃光弾)や爆雷を装備した護衛艦が護衛につくようになると、ますます潜空艦は手出しが出来なくなった。
 だが後方で暴れられるのは、防衛軍としては面白くない。

(全く小うるさい連中だ。敵の策源地を叩いておきたいが、どこにあるのやら……)

 だが参謀長の懸念はすぐに解決されることになる。そう、ボラー連邦軍によって。
 ボラー連邦軍上層部は前回の太陽系外縁での大失態を雪ぐべく、ボラー連邦建国以来有数の大艦隊を編成して、太陽系周辺に派遣することを決定した。

「侵略者のガトランティス帝国軍を叩き潰すのだ!」
 
 ラム艦長から聞けば「お前が言うか」と突っ込まれそうな台詞を吐いたべムラーゼの厳命を受けたボラー軍の本気であった。
 しかし大艦隊を一気に送り込めないため、まずは先遣部隊が派遣された。




 勿論、ボラー連邦の動きを地球連邦は警戒したが、ボラー連邦の面子を立てる形で派兵を黙認した。
ボラー連邦ほどの大国ならわざわざ地球連邦の黙認など必要ないのだがヤマトをはじめとした地球防衛軍の力、そして新たな脅威であるガトランティス帝国の存在が地球連邦への宥和政策を是とした。

「地球人にボラー軍の真の実力を見せてやる」

 ボラー連邦軍先遣部隊司令官のハーキンス中将は、先遣部隊の空母艦載機を使って太陽系周辺のガトランティス帝国軍の所在を調べ上げた。そして潜空艦を見つけるや否や、全力で叩き潰していった。
 先遣部隊であるものの、その空母や戦闘空母の数は防衛軍が保有する戦闘空母を凌駕しており、その攻撃力も圧倒的だった。かくしてナスカ艦隊の数少ない潜空艦は撃滅されてしまった。
 勿論、その報告は多少脚色された形でべムラーゼに届けられる。

「次は侵攻してくる敵の主力艦隊と白色彗星本体だな」
 
 べムラーゼは少しは機嫌を持ち直すも、すぐに厳しい顔で軍部に派兵を急かした。

「必要なら機動要塞も投入せよ。不足するものがあれば私の名前で関係部署に通達すれば良い」
「了解しました!」

 ブラックホール砲を搭載し、波動砲を超える収束率を持つデスラー砲さえ弾き返す防御力を誇る機動要塞ゼスバーゼはボラー連邦にとっても貴重な兵器だ。しかし今回はそれを投入するだけの意味があった。 

「今に見ておれ」

 怒りに燃えるべムラーゼ以下のボラー連邦首脳陣に対して、ガトランティス帝国側はボラー連邦軍の評価を少しながら上方修正した。
 



「地球艦隊と比べると練度は高くは無いな。だが数は多い。地球を越える星間国家なのだろう」

 攻撃されてからすぐに大規模な部隊を派遣してきたボラー連邦軍を見て、ズォーダーはそう判断した。

「それに太陽系外縁に進出してきている。このままだと地球艦隊と戦う前に、奴らと戦うことになりそうだな」
「小癪な!」

 帝国ナンバー2であるサーベラーはヒステリックに叫ぶ。

「あのような軍、速やかに踏み潰すべきです!」
「勿論叩き潰す。だが地球艦隊は思ったより侮れん。奴らと本格的に協調されると面倒なことになる。
 それにナスカ艦隊が壊滅したせいで太陽系に前線基地が作れなかったのも問題だ」

 ズォーダーの台詞に遊撃艦隊司令長官ゲーニッツは頭を下げる。

「も、申し訳ございません」
「前衛艦隊はどうなっている?」
「主力はシリウス恒星系に集結、再編中です。バルゼー司令官を急かすこともできますが」
「全面攻勢はまだ行わん。だがゲリラ攻撃を仕掛けて奴らを撹乱する。ナスカ艦隊の二の舞は許さんぞ」
「承知しました」

 話は終わりだと席を立とうとするズォーダー。だがそれをサーベラーが引き止める。

「それと大帝、デスラーのことですが……」
「サーベラー、ヤマトのことは、ヤマトのことをよく知っている者に任せる」
「……」
 
 かくして地球艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、太陽系の外ではボラー連邦とガトランティス帝国の熾烈な戦いが繰り広げられることになる。

 



 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第17話

 11番惑星はボラー連邦軍と地球防衛艦隊の最前線基地となっていた。
 ボラー連邦艦隊や地球防衛艦隊の艦船の整備と補修ができるように次々に大型ドックが建設され、それを守るために必要な航空隊や空間騎兵隊が配備された。

「最前線の砦たる11番惑星、そして防衛艦隊の根拠地である土星基地。この二重の守りがあれば太陽系は守りきれる」

 参謀長の言うとおり、11番惑星に建設された基地群はボラー連邦と地球防衛艦隊の双方を見事に支えた。
 ガトランティス帝国軍の空母部隊がゲリラ攻撃を仕掛けてきたものの、11番惑星周辺に張り巡らされた防衛線を突破することはできなかった。

「やはり数は偉大だな」

 ボラー連邦軍の圧倒的数は参謀長からすれば羨ましい限りだった。
 
「空母群も本格的だし……うちの空母とは大違いだ」

 防衛軍司令部のモニターに映る地球防衛艦隊の『宇宙空母』を見て、参謀長は内心でため息をつく。
 主力戦艦の後ろに強引に空母機能をつけたこの艦は、本格的な空母とは言いがたかった。ムサシはさらに発展させているが本格的な空母より劣る。汎用性は高いだろうが……。

(シナノはあのような中途半端な艦ではなく、真の、本格的な『空母』にしたいものだ)

 しかし正規空母というのは作っただけでは意味が無い。
 むしろ艦をきっちりガードするための護衛艦隊が必要となる。ワープ技術の発達によって咄嗟砲撃戦が多くなると脆い可能性は否定できない。

(アウトレンジ攻撃か。ガミラスの瞬間物質位相装置が欲しいな。あれがあれば……いやボラー連邦からワープミサイルの技術を得られれば小型のワープユニットが作れるかも知れん)




 色々と新戦術の構想を練りつつも、参謀長は他の仲間と共に次の手を考えていた。

「ボラー連邦軍の登場で戦力比は大幅に改善された。またボラー連邦の大使も本格的に参戦すると言ってきているのでガトランティス戦役は何とかなる可能性が高まった。そこで反攻作戦についても話し合いたい」
「まさかと思いますが、アンドロメダ星雲へ侵攻するとでも?」
「あり得んよ。まぁボラーが出兵すると言ってきたら付き合い程度に艦を出す必要はあるかも知れないが……
 真の狙いは太陽系の外の宙域、そしてシリウスなどのガトランティス帝国軍によって占領されている地域の確保だ」

 参謀長の意見に連邦政府高官が頷く。

「復活編に備えて、第二の地球の確保は必要だ。アマールに頭を下げて移民するよりも自前の植民地惑星があったほうが楽だ」

 この言葉に賛同者が相次ぐ。
 
「それに銀河系中心部とは離れている。赤色銀河との衝突があっても被害はない」
「ボラー連邦の弱体化とSUSの台頭に対応するには必要でしょう」
「開発特需も期待できる」
「安全保障面でもメリットはある。いつまでも太陽系だけを生存圏にするわけにはいかない。
 というか原作だと、何で太陽系のみに住んでいたのか分らないが……まぁ気にしないで置こう」

 勿論、これらの決定は目の前に迫り来る白色彗星や前衛艦隊を撃滅しないことには意味が無い、狸の皮算用になる。
 しかし終ってから決めていたのでは、ボラー連邦によっていいようにガトランティスの占領地を奪われ、地球人類は太陽系へ閉じ込められてしまう。それは避けなければならない。

「では白色彗星撃滅後、ただちにボラー連邦と協議を行おう」

 こうして地球防衛軍と連邦政府は手薬煉を引いてガトランティス軍の本格的な襲来を待ち受けた。
 



「名無しキャラがメインの地球防衛艦隊が如何に手強いか見せてくれる……まぁ私の出番はないが」
 
 参謀長が嘆息する傍らで、前線部隊は意気軒昂だった。

「死亡フラグを叩き折って生還してやる!」
「ついでに地球防衛軍がやられ役じゃないってことを思い知らせてやる!」
「ヤマトとムサシだけに美味しい役はさせないぞ!」

 原作ではヒペリオン艦隊司令官だった艦長以下、多数の名無しキャラ達はそう士気を上げた。
 彼らの勢いと、ガミラス戦役での消耗が抑えられたこと、早めに軍拡に舵を切っていたことで地球防衛艦隊の実力は非常に高かった。何しろ波動カードリッジ弾、コスモ三式弾、波動爆雷などの新兵器も配備されている。
 これらはテレザートに向かっている途中にガトランティス軍と戦ったヤマトから送られてきた実戦データを基にしてさらに改良が進められており、高い戦果が期待できた。

「ふむ。これなら何とかなるかも知れん」

 土方でさえもそう言うのだから、地球防衛艦隊の充実振りが分る。
 かくして地球防衛軍の出番が回ってくる……筈だったのだが、彼らの目論見は大きく狂うことになる。

「……もう一度言ってくれないか、古代艦長代理」

 防衛軍司令部のスクリーンに映る古代に、参謀長は顔を引きつらせながら再度尋ねる。
 だが答えは変わらない。

「はい。ヤマトは先ほど白色彗星を奇襲。これを撃破しました」

 原作が木っ端微塵になった瞬間だった。






 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第18話

 時はさかのぼる。
 ヤマトはガトランティス艦隊やデスラー艦隊を退けてテレサが閉じ込められているテレザートに到着した。
 ここで原作ならテレサは自分の力を振るうことを嫌って、最初ヤマトクルーの協力要請を拒否するのだがこの世界では会談の末、ヤマトと地球連邦への協力を是としたのだ。
 切っ掛けを作ったのは原作にはいない人物だった。

「祈るだけでは何も解決しない! 実際に銀河系中心部ではシャルバート教の信者は祈りを捧げているにも関わらず、恐怖政治を敷くボラー連邦に弾圧されている!」

 そう言ったのは、会談に同行していた名無しの空間騎兵隊隊長(斉藤ではない&転生者ではない)だ。
 斉藤と違って彼は理路整然と反論していく。バース星では、命を掛けてヤマトの乗っ取りを図らざるを得なかった囚人達と戦い、後に彼ら尋問をしただけにその言葉には重みがあった。 

「ですが……」

 ゆれるテレサ。これに古代や島が追い討ちをかける。

「協力してもらえないでしょうか? 仮にガトランティスを退けることができたとしても、ボラーが出てくれば結局は同じことになりかねない」
「そうです」

 結果的にテレサは折れ、ヤマトクルーと話し合った上、テレザートを自爆させることで白色彗星を食い止めることになる。
 勿論、テレサ本人が死なないようにした。ここまでなら原作に近かったかもしれない。だがヤマトを不沈艦とする要因@である真田がここで口を挟む。

「白色彗星を効率的に食い止めるにはタイミングが重要だ」

 かくしてタイミングを見て、テレザートは自爆する。
 それが第二の分岐点となった。 
 



 テレザートの自爆によって大打撃を受けた都市帝国は、防御スクリーンでもあった本体周辺のガス帯を完全に吹き飛ばされた。さらにその帝国の機能そのものが一時的に麻痺状態に陥った。
 あちこちから黒煙があがり、都市の機能は麻痺した。摩天楼の集合体のような都市は真っ暗となっていた。

「全ての回線を速やかに立て直せ!」

 大帝であるズォーダーは混乱する帝国上層部を叱責して、事態の収拾を図った。
 だがその隙を見逃すほど、ヤマトは甘くは無かった。伊達にガミラス帝国を滅ぼした船ではないのだ。

「波動砲発射!」

 機能不全に陥った都市帝国に奇襲を仕掛けた上、ヤマトは容赦なく波動砲を撃ち込んだ。
 何とか迎撃しようとしたガトランティス帝国軍部隊は、コスモタイガー隊によって悉く阻止されてしまったので成す術がなかった。
 都市帝国の本体は直径15キロ程度。波動砲の破壊力を持ってすれば破壊することは容易だった……かくして都市帝国は巨大戦艦諸共、元々テレザートがあった宙域で崩壊してしまった。
 
「ば、馬鹿な!」

 大帝は巨大戦艦に乗り込むことも出来ず、他の帝国首脳と共に都市帝国の崩壊に巻き込まれ、爆炎の中に消えた。
 ちなみにサーベラーの策略でヤマトとの戦いで敵前逃亡をしたとの濡れ衣で監禁されていたデスラーは、相変わらずの不死身振り、もとい悪運と副官であるタランの手で何とか脱出に成功。そのままガミラス残存艦隊に拾われることになる。
 しかしデスラー艦は失われており、支援者であるガトランティス帝国が崩壊。加えて地球のバックには他の星間国家が付きつつあるという状況では、さすがのデスラーもヤマトへの復讐を挑む決断はできなかった。

「暫しの別れだ。だが……私は必ず戻ってくるぞ」

 こうしてデスラーは雌伏の時を過ごすことを決意した。




 デスラーのことはヤマトの乗組員も知らなかったが、取りあえず白色彗星は撃破できたのは事実。
 このためヤマトのメンバーは鼻高々に防衛軍司令部に白色彗星を撃破したことを報告したのだ。

「……そうか。よくやってくれた」

 詳細な報告を聞き、誰もが喝采をあげる中、参謀長は少し乾いた笑みを浮かべつつヤマトの奮戦と戦果を称えた。
 いや称えるしかなかった。何しろ彼らは表向き、新たな脅威であるはずのガトランティス帝国の本拠地を最小限の犠牲で撃滅したのだ。
 ましてヤマトを派遣するように防衛会議に提案したのは参謀長自身。ヤマトは与えられた任務をこなしたにすぎない。表向き、彼らには非難される理由はなかった。

「と、とりあえず都市帝国の残骸を調査してくれ。何か有益なものが見つかるかも知れない」

 参謀長はそう言って後は別の人間に任せた。
 そして防衛軍司令部の指令室を後にする。彼は暫く廊下を歩き、周囲に誰も居ないのを確認すると叫んだ。 
 
「……何だ、そりゃあ!?」

 これまで準備した入念な計画や戦略を、名前ありのレギュラー陣によって容赦なくぶち壊された男の魂の叫びだった。
 



 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第19話

 ヤマトは防衛軍司令部の指示を受けて、都市帝国の残骸を細かく調査した。
 波動砲によって都市帝国は滅茶苦茶に破壊されていたが、破壊を免れた部分もあったし、崩壊の際に生まれた大量のデブリは宝の山でもあった。
 巨大戦艦の残骸や、比較的損傷が少なかったデスラー艦は最優先で確保された。ただしあまりにも確保しなければならない物品が多いので、地球防衛軍司令部はただちに高速艦を急行させることを決定した。

「目ぼしいものは全て奪うのだ!」

 参謀長の台詞は些か非道だったが、ガミラスに続いて、侵略の危機にさらされた人類からすれば当然であった。
 また今後の過密スケジュールを知る転生者たちにとって、都市帝国の残骸から得られるであろう資源や技術は垂涎の的であった。

「暗黒星団帝国、いやデザリウムと接触する前に地球連邦の国力と防衛軍をさらに強化しなければならない」

 形振り構っていられる余裕は地球に無かった。
 彼らは広大な宇宙においては地球連邦が小国に過ぎないことをよく認識していたのだ。
 
「あとはテレサ、彼女の扱いだな……何しろ彼女の力が公になれば争いの火種になる」

 参謀長の意見に対して、転生者仲間からは彼女の存在を公にして、ボラー連邦に対する抑止力としてはどうかという意見もでたが参謀長はこれを否定した。

「あのボラーが簡単に引き下がるとでも? ただでさえ警戒されるのに、火種を増やしてどうする?」

 ガトランティス帝国から技術や資源を収奪すると同時に反物質を操るテレサについては、その存在を隠匿することが決定された。 

「下手に公表したらボラー連邦との関係が揺るぎかねない」

 防衛会議の席で放たれた連邦高官の台詞は正鵠を得ていた。
 地球連邦首脳部も、心の底からボラー連邦を信用したわけではない。彼らは敵対するより協調するほうがメリットが大きいと判断したからこそボラーと付き合っているのだ。勿論、ボラー連邦とて同じこと。
 そのメリットを悪戯に失わせる意味は、今のところなかった。





「厄介な存在だ。だがこの際、彼女には色々と地球に協力してもらう。島という丁度良い餌もある」

 防衛軍司令部の自室で、参謀長は転生者仲間(表向きは部下)にそう告げる。

「……悪役みたいな顔をしていますよ、参謀長」
「何とでも言え。全く」
「まぁこれで防衛艦隊はほぼ無傷です。良かったのでは?」
「戦術的にはな。だが戦略面では問題が大きい。
 何しろ地球が単独でガトランティスを撃退したとなれば、銀河の盟主を自称する困った大国が煩い。
 彼らの怒りを何としても前衛艦隊にぶつける必要があるだろう……地球が迷惑を被らないためにも」
「では?」
「そうだ。シリウス、プロキオンの攻略作戦を提案する。
 本来は前衛艦隊と都市帝国撃滅後に提案するつもりだったんだが、こうなってしまった以上、止むを得ない」

 だが地球が単独で白色彗星撃滅に成功したとの情報を受け取ったボラー連邦の動きは予想以上に早かった。
 勿論、べムラーゼなどボラー首脳部も報告を受けた際には唖然となったが、即座に頭を切り替えた。

「銀河系に展開するガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!」

 べムラーゼの厳命を受けたボラー連邦軍は、集結を待たずして大攻勢に出ることになる。
 前線指揮官の中には十分に兵力を集中させた後に攻勢に出るべきと主張する者もいたが、政治の事情がそれを許さなかった。 
 
「このままでは面子が丸つぶれではないか!!」

 ボラー連邦の威信をかけて、ボラー連邦軍はシリウス、プロキオンへの攻勢を開始した。
 その一方で彼らは対地球戦争も想定しはじめる。地球がボラー連邦にとっても脅威になりえる国家と認識された瞬間だった。




 地球とボラーの動きが慌しくなっている頃、ガトランティス帝国軍前衛艦隊も俄かに騒がしくなっていた。
 
「馬鹿な! 大帝が戦死され、都市帝国が崩壊だと?! そんなことがあってたまるか!!」

 バルゼー提督は旗艦メダルーザの艦橋で、副官にそう言って何度も事実を確認させた。
 そしてそれが真実であることを知ると頭を抱えた。

「大帝が戦死……」

 自軍の根拠地である都市帝国が崩壊し、政府首脳が根こそぎ全滅したことで銀河系に展開している前衛艦隊は根無し草になったと言っても良い。
 さらに情報が拡散すれば兵士達の動揺も予想される。何しろこれほどの一方的な大敗など帝国建国以来始めてのことだ。

「ヤマト、ただの戦艦1隻に帝国が敗れるというのか……」
「提督、この際、アンドロメダ星雲に引き上げ、態勢を整えるべきでは?」

 副官の提案は正論だったが、バルゼーは簡単に首を縦に振らない。

「ここまでやられて何もせずに引き返すことなどできるか! せめて地球に一撃を与えなければならん!!
 情報を秘匿せよ。それとプロキオンのゲルンに通信回線を繋げ!!」
「了解しました!」

 かくしてガトランティス帝国軍は事情を知って浮き足立つ人間を押さえつつ、攻勢に出ることになる。

「大帝の敵討ち、そして帝国の威信にかけて地球艦隊を撃破するのだ!」
「侵略者共を逃がしてはならん! ボラーの威信にかけて撃滅するのだ!」

 かくして相変わらず地球防衛艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、大艦隊決戦が生起しようとしていた。
 この動きを見ていた防衛軍の某高官はボソリと呟く。

「防衛艦隊は壊滅しないで済んだが、引き換えに出番が壊滅した気がするのは何故だろうか……」

   


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第20話

 西暦2201年12月7日、ガトランティス帝国軍とボラー連邦軍による大艦隊決戦が生起した。
 地球防衛軍を撃滅するべく太陽系に向けて侵攻するガトランティス帝国軍に、ガトランティス帝国軍撃滅を目論むボラー連邦軍が襲い掛かる形で発生した艦隊決戦は、地球人類にとってはじめて見る大規模な空母決戦から始まった。

「100隻以上の空母、戦闘空母による大決戦か」

 参謀長は司令部で報告を聞くと感心したような、羨ましがるような顔をした。
 何しろ史上稀に見る大決戦なのだ。華やかな出番を願う参謀長としては複雑な思いを抱くのも無理は無かった。 

「……偵察部隊に情報収集を怠るな、と伝えろ。他国の戦争でも、色々と参考になるからな」
「はっ!」

 史上稀に見る航空戦は数で勝るボラー軍の辛勝で終った。
 ガトランティス帝国軍は保有空母全てを撃沈、或いは飛行甲板をズタズタにされ空母としては役立たずとなった。
 ボラー連邦軍も保有空母の大半がやられてしまったが、空母2隻が辛うじて戦場に踏みとどまることに成功。これによってボラー連邦軍は限定的ながらも制空権を握ることが出来た。
 しかしバルゼーは容易に引き下がることはなかった。

「ゲルン、お前の艦隊は下がれ! 主力は密集隊形をとり前進する!!」
 
 バルゼーは旗艦メダルーザを先頭にしてボラー艦隊に向けて突撃した。
 勿論、ボラー艦隊司令官のハーキンス中将は空母2隻でガトランティス艦隊を攻撃したが、ガトランティス艦隊を阻止することは適わなかった。
 密集隊形をとり、さらに回転砲で応戦するガトランティス艦隊によって航空戦力は少なくない打撃を受け取った。
 
「こうなれば艦隊決戦で叩き潰す!」

 ハーキンス中将は航空攻撃を切り上げると、艦隊を再編した後、ガトランティス帝国軍との艦隊決戦に臨んだ。
 数の面ではボラー連邦軍はガトランティス艦隊を上回っていた。正面勝負なら互角以上に戦えるはずだった。
 だがその目論見は、原作で地球防衛艦隊に大打撃を浴びせた『火炎直撃砲』によって覆される。



 拡散波動砲の2倍の射程を誇る火炎直撃砲は、ボラー連邦艦隊を滅多打ちにした。
 戦力の中核であった空母2隻が撃沈され、続いて戦艦が一方的にアウトレンジ攻撃で撃沈されていく。
 
「これが敵の切り札か!」
「ど、どうされますか?」
「浮き足立つな! 距離を詰めるぞ!!」

 ハーキンス中将はそう言って全速力でガトランティス艦隊に接近していった。だがそれは致命的な事態を引き起こした。
 距離を詰めていく途中、ハーキンス中将が乗る旗艦が火炎直撃砲の直撃を受けたのだ。
 地球防衛軍が誇るアンドロメダ級戦艦でさえ撃沈できるエネルギーの前に、旗艦の装甲は意味を成さなかった。

「ボラー艦隊旗艦撃沈!」

 この報告は地球防衛軍司令部にも衝撃を与えた。

「信じられん」
「あの威力で、あの射程。そして高い連射能力……防衛艦隊も唯ではすまないぞ」
「これがガトランティス帝国軍の実力か」

 地球では考えられないほどの物量のぶつかり合い、そして今の地球の科学力では到底実現できないであろう超兵器の存在は白色彗星を撃破したことで少し天狗になっていた地球防衛軍高官たちの鼻をへし折った。
 同時に波動砲に依存することが危険であることも明らかになり、参謀長の新戦術構築の主張を鼻で笑っていた人間達は真っ青になった。

「もしもあそこにいるのが防衛艦隊で、波動砲発射隊形をとっていたら、一方的に滅多打ちになっていただろう」

 参謀長の言葉に誰もが沈黙した。
 全てのエネルギーを波動砲に回すということは、身動きが取れなくなるということであり、的同然なのだ。

「戦術の見直しが必要だろう」

 藤堂の言葉に反対意見は無かった。



 ボラー連邦軍は旗艦が撃沈されたことで浮き足立った。
 そしてこれを見逃すバルゼーではなかった。伊達にアンドロメダ星雲で戦歴を重ねたわけではないのだ。
 大戦艦や駆逐艦、ミサイル艦などが一斉に砲門を開き、その圧倒的火力をボラー連邦艦隊に叩きつけた。

「反撃する! 全砲門開け!!」

 ラジェンドラ号のラム艦長は混乱する部下達を叱責した後、周りの艦を統制して反撃を開始するが、そのようなことが出来た艦長は少数だった。多くのボラー連邦軍部隊は、混乱した状態のままガトランティス軍によって蹂躙されていった。
 その光景に、会戦をモニターしていた地球防衛軍司令部の面々は沈黙した。

「「「………」」」 

 かくしてボラー連邦軍艦隊は壊滅した。
 だがガトランティス軍も少なくない消耗を強いられていた。

「くそ。敵の数が多かったせいで、エネルギーや弾薬が消耗しすぎた。それに損傷した艦も少なくない」

 バルゼーは報告を聞いて顔を顰めた。
 
「数だけが取り柄の三流軍隊が、手間取らせおって」
「どうされますか?」
   
 艦隊決戦に勝利したものの、バルゼー艦隊が受けた損害は少なくない。さらに空母部隊は事実上壊滅している。

(都市帝国をただ1隻で撃滅したヤマト、そしてそれを超える戦艦を持つ地球艦隊が待ち構える太陽系にこのまま向かうのは危険すぎるか)

 バルゼーは勇猛な武人であったが無謀ではなかった。彼は補給のために一旦艦隊をシリウスに引き上げていった。